【再建シナリオ②】ルノーとの関係を再構築する
世界の自動車業界は大規模な再編、グルーピングが進みつつある。日産が軍門に下るような形を取らずに技術提携、資本提携関係を結べる相手はもういくらも残っていない。
その中で意外にありなプランは、ルノーとの関係を再び強化することだ。日産がルノーと資本関係の見直しで合意したのは2年前の2023年2月のこと。もともとの動機は、ルノーは日産の議決権を持つのに日産はルノーの議決権を持たないという長年の“不平等条約”の是正だったが、交渉の過程で「日産が業績を思うように伸ばせないのはルノーに支配されているせい」と、日産の経営問題とも絡めて論じる記事が多数みられた。

しかし、結論から言えばルノーは日産から投資の見返りとしての配当は受けていたが、不当に利益を収奪していたわけではなかったし、日産の経営を支配したわけでもなかった。意地悪な見方をすれば、日産自身の経営の拙さをルノーのせいにして責任回避を図ったようにすら感じられる。
資本提携の見直し後、2023年12月の共同会見ではルノー、日産、三菱自動車の3社アライアンスを維持するとしながらも、ルノーサイドは会見で「われわれは日産に対して何の影響力も発揮できなかった」とかなり感情的な発言を行うなど、関係悪化は明らかだった。
エスピノーサ氏の社長指名オンライン会見に出席した内田現社長はルノーとの関係について、「未来志向の議論を重ねながら、信頼関係を構築してきました。その結果が、2023年2月のリバランス実現につながりました。互いに納得できる形で合意することができた」と、融和を強調した。
日産がルノーから出資を受けてアライアンスがスタートしたのは1999年のこと。当初日産のトップ、後にはルノーのトップも兼任したゴーン氏のビジョンはルノーと日産が共通のリソースを持ち、それを使って両社が自分の戦略やフィロソフィーに従ってクルマ作りを行うというものだったが、そんな事例は世界の自動車業界の歴史においてもほとんどなかったもので、当然難産だった。
その状況が急に好転してきたのは、2010年代も終わりに近づいた頃。両社共通のクルマの基礎部分は「コモンモジュールファミリー(CMF)」というモジュール工法であるが、それを使用しつつ日産とルノーでテイストもキャラクターも全く異なるモデルを自在に作り分けられるようになってきたのだ。
好例はBセグメント小型車の第5世代ルノー「クリオ(ルーテシア)」と第3世代日産「ノート」。デザイン、搭載エンジン、全高・全幅などのディメンションなどそれぞれ独自の仕様のものを共通のモジュールで作っている。クリオは低車高、低重心、ノートは室内の居住空間重視と方向性は大きく異なるが、走りや乗り心地のテイストはそれぞれ独特の良さを持っていた。


CMFを使用したもうひとつの例は三菱自動車のプラグインハイブリッドカー、第2世代「アウトランダーPHEV」。三菱自動車は後からルノー=日産アライアンスに加わったためCMFの開発にはまったくタッチしておらず、一方的にそれを使う側だった。

開発担当者は、「開発前はどのくらいのことができるのか不安だったが、いざ作ってみると予想よりずっと思い通りにクルマを作れるシステムでした。重量級SUVを作る上では欠点もありますが、チューニングでそれが顔を出さないようにできるレベルでした」と開発過程を振り返った。
実際に走ってみてもその現行アウトランダーPHEVは非常にハイレベルな乗り心地の良さや高い静粛性を備えていた。ルノーと日産それぞれの技術陣がしばしばいがみ合いながらもWin-Winを目指したことが、自動車業界ではあまり例のない“民主的基盤技術”の実現につながったと言える。
そんなプロセスを共に体験した両社が単なる共同購買や技術の相互供給など、ビジネスライクなアライアンスになってしまうのは、そもそももったいない話だった。もしルノーが再び日産の安定大株主となるのなら再び不平等状態が生じることになるが、気心が知れていない他の企業とゼロから不平等条約を結ぶよりはずっといいだろう。