現行の第2世代e-POWER。2025年から搭載される新型でどこまで性能を向上させることができるか現行の第2世代e-POWER。今年から搭載される新型でどこまで性能を向上させることができるか(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)

井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)

大幅な性能向上を謳う第3世代e-POWER車で北米再投入を計画

 ホンダとの提携交渉が物別れに終わった日産自動車。破談が正式に決まった2月13日に行われた第3四半期決算の席上、内田誠社長は近未来の新商品、新技術に関する情報を多数公表した。

退任も取り沙汰されている日産自動車の内田誠社長(2025年2月13日)退任も取り沙汰されている日産自動車の内田誠社長(2025年2月13日、写真:共同通信社)

 日産の経営危機はルノー傘下入りするきっかけとなった1990年代の財務危機ともリーマンショックのような外的要因によるものとも異なる。クルマが売れないことによって営業キャッシュフローが激減し、利益が出なくなるという、いわば“営業危機”だ。

 それを跳ね返して利益が出せる体制を構築するにはリストラだけでは不十分で、日産がこの先も技術競争を戦えると世間に見てもらう必要がある。悪い話が増えればその企業のやることなすことすべてが間違って見えるネガティブ・ハロー効果が生じる。それを何とか払拭したい日産にとって、“実弾”の積極開示は当然の戦略だろう。

 そこで示されたタマのひとつに日産独自のハイブリッドシステム、新型「e-POWER」があった。e-POWERは2016年に小型車の旧型「ノート」に初搭載され、2020年には現行ノートで第2世代へと進化した。新型e-POWERは第3世代に当たり、欧州で今年(2025年)発売するSUVから順次投入する予定だ。

第1世代e-POWER初採用モデルの旧型ノート第1世代e-POWER初採用モデルの旧型ノート(筆者撮影)

 詳細な機構の説明やスペックの公表はなかったので概略だけだが、内田社長が明かした第3世代の骨子は次のとおり。

①総合燃費性能を第1世代から20%、高速燃費を第2世代から15%向上させ、クラストップレベルを達成する
②性能向上は発電専用エンジン、および電動部分の統合化によって実現する
③コストを第1世代比で20%削減する

 第3世代e-POWERの実車がこの文言どおりの性能向上幅を達成できていれば、大いに競争力は増すだろう。

 日産は過去、高級車チャネルであるインフィニティブランドから「Q50(日本名スカイライン)ハイブリッド」「M35h」など、e-POWER方式でないハイブリッドモデルを北米で販売していた。

 だが、当時売れているハイブリッドカーはトヨタ自動車の「プリウス」のみで、それも日本より販売台数が少ないというハイブリッド不遇の時代。日産のハイブリッドは月販2桁と顧客の支持をまったく得られず、生産終了となった。

 今日、e-POWER車は日本、欧州、中国などで販売されているが、北米ではラインアップされていない。第3世代e-POWERの完成を機に北米にハイブリッドを商品力増強の切り札として再投入するというのが日産の計画である。