スーパー耐久シリーズ2025最終戦で走行する「マツダ スピリットレーシング 3 フューチャーコンセプト」。ボディサイド後部にCO2吸着量を示す緑色のインジケーターが光る様子(写真:マツダ)
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クルマが走れば走るほど大気中のCO2が減る。そんな「カーボンネガティブ」な世界を、マツダは真剣に実現しようとしている。第一歩として、同社はレーシングマシンにCO2回収装置を取り付けレースに参戦。今後3年程度をめどに基礎的な研究開発を進めて、2035年頃の量産化を目指すという。なぜマツダが今、カーボンネガティブを目指すのか。開発関係者らから詳しい話を聞いた。

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 国内モータースポーツのスーパー耐久シリーズ2025最終戦(11月15日〜16日、静岡県富士スピードウェイ)の決勝で、ボディサイドの上部に、緑のライトを光らせているクルマに、メディアの注目が集まった。

 マツダ本社が参戦するゼッケン55番「マツダスピリットレーシング 3 フューチャーコンセプト」である。

 緑のライトが光っているのは、マシンに装着されたCO2回収装置内のCO2の量を示すインジケーターで、走れば走るほど緑の部分が増えていくという仕組みだ。

スーパー耐久シリーズ2025最終戦の決勝前の様子(写真:筆者撮影)

 その様子を場内放送の画面で確認したマツダ技術研究所・研究長の原田雄司氏は、「鳥肌が立った」と興奮気味に語った。想定通りにCO2が回収される様子を見た瞬間のことだ。原田氏はマツダが進める「カーボンネガティブ」技術の基礎研究を広島で進めているが、こうして公の場で実機をつけたクルマを走らせるのは、今回が初めてだ。

 マツダが決勝当日の朝に実施したメディア向けのラウンドミーティングでも、「マツダ・モバイル・カーボン・キャプチャー」と称するCO2回収のシステム構成と今後の研究プロセスについて説明したばかりだった。

マツダが実施したメディアとのラウンドミーティングの様子。手前が取締役専務執行役員 兼 CSO(最高戦略責任者)の小島岳二氏(写真:筆者撮影)

 カーボンネガティブとは、経済活動などによるCO2の排出量よりも、大気中からCO2を削減したり回収したりする量の方が多い状態のことを指す。

 CO2の排出と削減や回収がイーブンになることをカーボンニュートラルと呼ぶが、カーボンネガティブはさらにその一歩先をいく。

 マツダはジャパンモビリリティショー2025(一般公開10月31日〜11月9日)でもカーボンネガティブへの挑戦を強調し、モバイル・カーボン・キャプチャーに関するデザインイメージモデルを世界初公開した。

「マツダ スピリットレーシング 3 フューチャーコンセプト」のエンジン(写真:筆者撮影)
「マツダ・モバイル・カーボン・キャプチャー」のデザインイメージモデル(写真:筆者撮影)

 これを、2035年をイメージした「マツダ X-クーペ コンセプト」に搭載する。ロータリーエンジン2基によるツインローターターボで最高出力510馬力、EV(電気自動車)モードでの航続距離が160km、ハイブリッド機能を使うと航続距離800kmを想定した大型2ドアクーペだ。

 燃料に微細藻類から抽出した次世代燃料を使用してCO2排出量を実質的に大幅に抑えて、さらにCO2の回収する「モバイル・カーボン・キャプチャー」技術を組み合わせることでカーボンネガティブを実現するという設定だ。

 そう聞いても、メディア関係者や一般来場者にとっては雲を掴むような話であり、あと10年でそんな未来が本当に来るのかと疑問を持つ人も少なくなかっただろう。

 それが今回、実際に次世代バイオ燃料のHVO(水素化植物油)を使い、さらに決勝レース中にモバイル・カーボン・キャプチャーが的確に作動している様子がマシンの外からも確認できたことで、筆者を含めて、カーボンネガティブの可能性を実感した人が増えたようだ。

 マツダのカーボンネガティブに向けた挑戦にを、詳しく見ていこう。