日産は新型エルグランド(第4世代)をブランド再興の足がかりとすることができるか(「ジャパンモビリティショー2025」にて筆者撮影)
(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)
「高級大型ミニバン」というジャンルを開拓した日産
第2回「ジャパンモビリティショー2025」(会期2025年10月30日~11月9日)の日産自動車ブースで華々しく公開されたのが、大型ミニバン「エルグランド」の試作車だ。
「ジャパンモビリティショー2025」に参考出品された第4世代エルグランドの試作車(筆者撮影)
新型エルグランド(試作車)のリアビュー(筆者撮影)
未曽有の経営危機に直面している日産にとってブランド力再興のための重要なモデルであるだけに記者の関心は高く、今年4月に代表執行役社長兼CEOに就任したイヴァン・エスピノーサ氏がスピーチを行うということもあって、プレスデーはブースの外まで記者で埋め尽くされるという盛況ぶりだった。
これまで疎かになっていた国内市場の商品ラインアップの再構築を図ることを表明したエスピノーサ社長は、エルグランドを次のように紹介して意気込みを見せた。
「日産の豊かなヘリテージ(伝統)と最新技術を融合させた新たなフラッグシップの提案を行います。その第1号が新型エルグランドです。開発テーマは優雅で洗練された第4世代エルグランドはタイムレス ジャパニーズ フューチャリズム。温かく、安らげる洗練された空間は日産のおもてなしの精神を体現しつつ、第3世代e-POWERと進化した電動AWDのe-4ORCEを搭載しています」
新型エルグランドにかける意気込みを語った日産のエスピノーサ社長(筆者撮影)
エルグランドは第1世代モデルの登場が28年前の1997年で、現在販売されているのは第3世代。年月的にはヘリテージと呼べるほどの歴史はないが、日産は現在アジアを中心に拡大している高級大型ミニバンというジャンルを開拓したエポックメーカーでもある。ブランド再興の足がかりとし得るモデルのひとつであることは確かだ。
第1世代はラダーフレーム式の後輪駆動という、今日ではいささか前時代的に感じられる技術パッケージだったが、エンジンをボンネット下に配置して室内の余裕を拡大。静粛性、重厚で滑らかな乗り心地はエンジンの上に運転席を配置するそれまでの1ボックス高級車とは一線を画するもので、先端的な機能装備も充実させて大ヒットとなった。トヨタ自動車が「グランビア」を作って対抗したものの一敗地にまみれるほどの強さだった。
当時日産の社長だった故・塙義一氏は、エルグランドの3列シートを2列に変更し、飛行機のファーストクラスのようなシートや通信設備を実装したものを作らせ、それを社長車として使用していた。それは後に「ロイヤルライン」として市販化された。まさに高級大型ミニバンの始祖のようなモデルだったのである。
だが、次の世代でトヨタとの形勢が大きく逆転する。