自民党総裁選に立候補した9氏。このうちの1人が次の日本のリーダーとなる(写真:共同通信社)

 岸田文雄首相の突然の退任表明によって始まった自民党総裁選だが、9人という立候補者の多さだけが目立っている。自民党は、安倍派や二階派、岸田派の裏金問題が噴出し、国民の強い批判を浴びることになった。補欠選挙でも敗北を続け、多くの派閥が解散に追い込まれた。派閥の重しが取れたことが乱立につながったのだろうが、自民党が大きな危機に直面していることは間違いない。

 これは見方を変えれば、選挙結果がどうなろうとバラバラになった派閥なき自民党を誰が、どう党内統治をしていくのか。新総裁の力量が問われることになるということだ。ではそういう候補者はいるのだろうか。

(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

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姑息な「選挙の顔」探しになっていないか

 自民党総裁選はこれまで何十回も行なわれてきたが、今回の総裁選挙ほど「選挙の顔」探し、“国政選挙で誰を総理・総裁にするのが有利か”という基準が露骨に見えるのは初めてではないか。安倍晋三氏や森喜朗氏、小渕恵三氏の総裁選出過程を見ても、こうした要素は少なかった。

 国民的人気を誇った小泉純一郎氏の場合も、「選挙の顔」というよりは小泉氏自身の人気が総裁選を勝ち抜かせていったのである。

 しかし、今度の総裁選挙は、裏金問題や統一教会問題などで自民党が大きく支持を減らしていること。衆院の解散総選挙が近いということもあって、文字通り「選挙の顔」には誰が良いのかが自民党議員や自民党員の大きな判断基準になっているように思えてならない。

 だがそんな安直な考えで次の総裁を選ぶなら、大きな禍根を残すことになるだろう。

 例えば裏金問題で高市早苗氏は、「いったん決まった処分に関して、総裁が代わったからといって全てひっくり返すのは独裁」と語った。同氏は、前回の総裁選で支持を受けた6割が安倍派で、今回の推薦人20人のうち13人が裏金議員だった。だからこういう発言になったのだろう。

有力候補の一角とされる高市氏。裏金議員から推薦を受けていることが明らかに(写真:共同通信社)

 だが多くの国民が苦しい生活の中でも納税しているのに、裏金は政治家の懐に入っているが税を納めていない。こんなことを放置して、国民の信頼を勝ち取ることはできないだろう。

 これは高市氏だけではない。9人全てが裏金議員の扱いに神経を使い、はっきり自分の見解を述べないのも情けない話だ。総裁選挙の国会議員票に影響してくることを心配しているからだ。

 政治改革という言葉は聞くが、9人の誰からも企業・団体献金禁止の話は聞かない。1995年に政党助成金が導入されたが、企業・団体献金を禁止するというのが口実だった。

 そもそも企業には、選挙権も被選挙権もない。参政権を持っているのは、主権者である国民一人ひとりである。企業は、利益を上げることが最大の目的で存在している。そんな企業の政治献金によって政治が動かされているとするなら、それは国民主権を蹂躙するものとなる。ここに手をつけないで政治改革を語る資格などない。