問題はカネとポスト
自民党は2024年3月の党大会で「政策集団がお金や人事から完全に決別することとし、これまでの『派閥』を禁止する」と定めました。しかし、これはかつての「三木答申」やリクルート事件後の「政治改革大綱」に比べれば、具体性に欠くと言わざるを得ません。
前述したように、今回の総裁選では、解散したはずの旧岸田派が集まって総裁選の結果を左右する投票行動があったことが見えてきました。総裁選に立候補した議員の陣営が今後、新たな「派閥」として頭角を表す可能性もあります。派閥の解消を宣言しても、総裁選で再結集する自民党の伝統的な派閥政治が完全に消滅する気配はありません。
新総裁に選出された石破氏は無派閥という位置付けですが、総裁選最終盤では麻生氏や岸田氏、菅氏など有力者に支持を要請しました。問われるのは新内閣や党役員の人事でいかに「派閥」の影響力を排除できるかでしょう。そして、なお未解明な部分がある裏金事件の真相究明を進めることが政治の信頼回復につながります。
多数決を原則とする民主政治において、数の力がものごとを決するのは当然です。総裁公選という制度においても、政策や政治理念を共有する者が集まり、その実現を目指すのは自然なことです。問題はそこに不透明なカネが絡み、ポストをちらつかせて票を集めるなどして、政治が歪められることなのです。
今回の総裁選で各候補は「生まれ変わった自民党の姿を示す」と訴えました。その成果は、政治における多数派形成の過程をいかに国民の目に見えるよう透明化できるかにかかっていると言えるでしょう。
西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。
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