軍事同盟は2国間がベスト

 NATOは、米ソ冷戦の結果、ソ連の脅威から相互に守り合うために当初12カ国により1949年に設立された。NATO諸国の脅威認識ははっきりと共有されており、それはあくまでもソ連であった。

 そのためソ連崩壊とともにNATOの目的、存在意義もあいまいになり、今や加盟国は32カ国となった。その中にはかつてソ連陣営だった旧東欧諸国やイスラム国家であるトルコまで含まれている。

 今回のウクライナ戦争に対してもNATOが一致して対応しているかとなると、それぞれの加盟国のスタンスには濃淡がある。例えウクライナがNATO加盟国であったとしてもNATOが一致した行動をとっていたかとなるとはなはだ疑問である。

 いずれにしてもNATOのような集団的自衛体制を構築するためには、脅威認識を共有することが不可欠である。アジアの場合、常識的には脅威対象は中国になると思うが、石破総裁は「中国を最初から排除することを念頭に置いているわけではない」とも語っている。

 ならばアジア版NATOは何をもって共通の脅威認識とするのであろうか?

 たとえ、「アジア版NATO」が中国を共通の脅威と位置付けた場合でもアジア各国、特にASEANの中国に対する認識は国によって異なっている。韓国でさえも政権によって中国に対するスタンスが違うことは周知の事実だ。

 石破総裁はまた、「アジア版NATO」は日米豪印のQUADあるいは日英豪のAUKUSの延長線上にあるとの見方を示したが、QUADは政治的連帯であり、軍事同盟ではない。AUKUSも元々豪州の原子力潜水艦建造のための支援枠組みであり、軍事同盟ではない。

 以上のことから私は、軍事同盟は2国間がベストだと思う。もちろん平時において友好国、同志国のネットワークを広げることには賛成だが、軍事同盟はあくまで運命共同体である。2国間でも同盟調整は簡単なことではない。まして多国間になるとその複雑さ、煩雑さは推して知るべしである。