都内で開かれた「日米2+2」会合(7月28日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 2024年7月28日、拡大抑止*1に関する日米閣僚会合が東京で開催された。

 日本側からは上川陽子外務大臣および木原稔防衛大臣が、米側からはアントニー・ブリンケン国務長官およびロイド・オースティン国防長官が出席し、閣僚レベルで議論を行った。

 概要は以下のとおりである。

①双方は、本年4月10日の日米首脳会談における共同声明も踏まえ、拡大抑止に特化した初の閣僚会合の実施に至ったことを歓迎した。

 また、2010年以降定期的に開催してきているEDD2において、拡大抑止の強化に向けた議論が継続的に深化していることを歓迎し、今後とも、EDDを中心に様々なレベルで拡大抑止に関する議論を強化し続けることを確認した。

*1=「拡大抑止」とは自国だけでなく、同盟国が核・通常攻撃を受けた際にも報復する意図を示すことで、同盟国への攻撃を他国に思いとどまらせることである。「拡大抑止(extended deterrence)」は、2つの抑止からなっている。一つは「拡大核抑止(extended nuclear deterrence)」で、もう一つは「拡大通常抑止(extended conventional deterrence)」である。「拡大核抑止」は、一般に「核の傘」ともいわれる。

*2=「EDD」は、日米同盟の中核である拡大抑止の維持・強化のあり方を議論する場として、2010年に設立された。以降、年に1、2回程度、外務・防衛当局の実務者で構成するEDDを定期的に開催している。EDDが設立された背景には、オバマ米政権が、2009年4月のプラハ演説で「核なき世界」を打ち出したことにより、「核の傘」の提供を受ける日本側が危機感を抱き、米側にEDD立ち上げを求めたことがある。

②双方は、拡大抑止を一層強化するための協力について突っ込んだ議論を行い、拡大抑止に関する「日米閣僚会合共同発表」を発出した。

 同共同発表では、「抑止力を強化する上での閣僚会合の重要性を強調し、日米両国がEDDを通じて、地域の安定を促進し、紛争の発生を抑止するために拡大抑止を強化する最善の方法を探求し続けることを確認した」などと述べられた。

 上記の拡大抑止に関する初の閣僚会合に関連し、林芳正官房長官は7月29日の記者会見で、「現実に核兵器などの日本に対する安全保障上の脅威が存在する中で、こうした脅威に対応するためには、米国が提供する核を含む拡大抑止が不可欠」と指摘した。

 その上で「米国の拡大抑止を含めて国の安全保障を確保しつつ、同時に、現実を核兵器のない世界という理想に近づけていくべく取り組むということは、決して矛盾することではない」と述べるとともに、今後とも、日米EDDや今回の閣僚会合のようなハイレベルでの協議を通じて、拡大抑止の強化に向けた取り組みを進めたいとの認識を示した。

 さて、現在の日本は、ルールに基づいた既存の地域・国際秩序に挑戦しようとする3つの核武装国に囲まれている。

 世界で最も厳しい安全保障環境に置かれていると言っても過言ではない。

 こうした深刻かつ複雑な核の脅威に直面する中で、国民の安全を確保して行くためには、米国の「拡大抑止」が不可欠である。

 米国は、「核態勢見直し(NPR)」の中で、「米国の核兵器の基本的な役割は、米国、その同盟国およびパートナー国に対する核攻撃を抑止することであり、米国はそれらの重大な利益を守るために極端な状況でのみ核兵器の使用を検討する」と述べている。

 では、米国の核兵器の使用条件はどのようになっているのであろうか。

 また、日本は戦後から一貫して核超大国・米国との同盟関係を軸に自国の安全保障を図ってきた。

 その象徴が「核の傘」である。

 ところが、ロシアのウクライナ侵略においては、米国のジョー・バイデン大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の核の恫喝の前に、米国としての軍事力の行使を完全に抑止された状態となってしまった。

 このことは、米国が同盟国に提供する「核の傘」の信頼性を揺るがした。

 以下、初めに米国防総省が2022年10月27日に公表した「核態勢見直し(Nuclear Posture Review: NPR)」(以下、NPRという)の概要について述べ、次に3つの核武装国に囲まれている日本の核の脅威に対する対応について述べる。