2023年末からつい最近までウクライナの戦況は、明らかにウクライナに不利であった。
米国の支援が半年滞ったことが「戦場に深刻な結果」をもたらしたことは間違いない。
米CNNは2023年12月17日、米軍高官の話として、ウクライナヘの米国などからの支援が停止した場合、最悪、2024年夏までに大規模な後退か敗北もありうるとの見方を伝えた。
一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2023年12月19日の国防省の会合でウクライナでの戦況について、次のように述べほくそ笑んで見せた。
「我々が主導権を握っていると断言できる。敵は反転攻勢の成果を西側に見せようとして備蓄の大半を浪費している。西側の軍備の不敗神話も崩れた」
しかし、今年になってウクライナ戦場の風向きは大きく変わってきた。
第1の変化は、米国はじめ西側諸国がウクライナへの資金・軍事支援を再開したことである。
2024年4月23日、米上院は、ロシアの侵略を受けるウクライナへ約610億ドル(約9兆4000億円)の支援を含む追加予算案を超党派による賛成多数で可決した。
ジョー・バイデン大統領が24日に署名し、予算は成立した。
法案に署名後、国民向けに演説したバイデン氏は「今日は米国、世界の平和にとって良い日だ。米国は友人たちを支え、独裁者たちに立ち向かう。我々はプーチンにも誰にも屈しない」と強調した。
第2の変化は、米国をはじめ西側諸国が、自国が提供した兵器でロシア領内を攻撃することを容認したことである。
2024年5月30日、バイデン米大統領は、ウクライナに対して、米国が供与した兵器でロシア領内を攻撃することを一部で認める決断を下した。
2022年2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻して以来、バイデン政権は自国製武器をウクライナがロシア領攻撃に使用するのは危険が大き過ぎると主張していた。
そうした攻撃は、核兵器を保有するロシアと米国の直接戦闘につながると懸念したのだ。
そのため米国は戦闘機や長距離の地対地ミサイル「ATACMS(Army Tactical Missile System=エイタクムス)」といった高性能兵器の供与も禁止してきた。
バイデン政権高官の説明では、今回の決定はハルキウ地域の戦闘に限定され、国境を越えて「ウクライナを攻撃、ないし攻撃を準備する」ロシア軍に対してウクライナが米国供与の兵器を使うことを容認するというものである。
ロシアの核使用を招くエスカレーションを恐れる米国が、ウクライナに対してこれまで禁止していた米国製兵器によるロシア領への直接攻撃を部分的ながら容認したのである。
第3の変化は、戦闘機のウクライナへの供与が現実味を帯びてきたことである。
2024年5月10日、ウクライナ軍関係筋は、6~7月に「F-16」戦闘機の初めての供与を受けるとの見通しを示した。
ただ、どの国からの供与になるかは明らかにしなかった。また、ウクライナ空軍報道官は、ウクライナ軍の一部パイロットの訓練が完了しつつあると明らかにしている。
以上の3つの環境の変化は、ウクライナ軍将兵を奮い立たせるに違いないと筆者はみている。
一方、ロシアのプーチン大統領は6月5日、米欧日など各国の通信社代表と会見し、「米欧はなぜかロシアが核兵器を使わないと考えている。主権と領土の保全が脅かされれば、あらゆる手段を使うことが可能だ」と述べ、自国が提供した兵器でのロシア領への攻撃を相次いでウクライナに認めた米欧諸国を牽制した。
また、6月7日、サンクトペテルブルクで開かれている国際経済フォーラムで演説し、「彼ら(欧米)が戦闘地域に武器を送り、我々の領土で武器を使用するよう呼びかけるのであれば、なぜ我々にも同じことをする権利がないのか」と述べ、欧米と対立する地域や勢力に同様に武器を送る権利を「留保している」と、欧米側を強く牽制した。
筆者は、これらのプーチン大統領の恫喝は、動揺・焦りの表れであるとみている。
ところで、軍事思想家カール・フォン・クラウゼヴィッツは、その著書『戦争論』で、「現実の戦争において講和の動機となりうるものが2つある。第1は、勝算の少ないこと、第2は、勝利のために払うべき犠牲の大きすぎることである。」と述べている。
現時点でウクライナ、ロシアとも和平交渉の席につく気は見られない。
なぜならば、両国とも勝算は我にありと思っているからである。また、犠牲についてはウクライナ軍には犠牲をいとわない高い士気がある。
一方、ロシア軍には兵士の死を何とも思わない人命軽視の風潮がある。したがって、ロシア・ウクライナ戦争終結の見通しは立っていない。
ところが、上記したように戦場の風向きが変わってきたことにより、戦場においてウクライナがロシアに勝てる見込みが出てきた。
以下、初めに、米国はじめ欧州諸国のウクライナへの資金・軍事支援の再開について述べる。
次に、米国はじめ欧州諸国が供与した武器でロシア領攻撃を容認したことについて述べ、最後に、F-16戦闘機のウクライナへの供与の影響について述べる。