2. 提供兵器でロシア領内の攻撃を容認

(1)経緯

①2024年5月2日、英国のデイビッド・キャメロン外相は、ウクライナ・キーウを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。

 キャメロン外相は、英国が供与した武器をどのように使うかはウクライナ次第だと述べ、ウクライナにはロシア領内の標的を攻撃する権利があると主張した。

②2024年5月25日、イェンス・ストルテンベルグNATO(北大西洋条約機構)事務総長は、ロシアとの国境に近いウクライナ北東部ハルキウ州で激戦が続いていることを挙げ、「ロシア領内の軍事目標への攻撃を否定することは、ウクライナの防衛を非常に困難にする」と指摘。

 そのうえで「同盟国は、ウクライナに供与した武器の使用制限を解除するかどうか検討する時期に来ている」と述べ、ロシア領内への攻撃に使うことに理解を示した。

③2024年5月30日、バイデン米大統領はウクライナに対して、米国が供与した兵器でロシア領内を攻撃することを一部で認める決断を下した。

 バイデン政権高官の説明では、今回の決定はハルキウ地域の戦闘に限定され、国境を越えて「ウクライナを攻撃、ないし攻撃を準備する」ロシア軍に対してウクライナが米国供与の兵器を使うのを容認するというものであり、かつ米国供与の兵器を使ってモスクワを攻撃することは認めないと強調した。

④2024年5月31日、ドイツ政府の報道官は、「ウクライナには国際法に基づき攻撃から自国を守る権利がある」として、ウクライナに対して、ドイツが提供した武器で自衛のためにロシア領内を攻撃することを認めると発表した。

 ドイツはこれまで、ロシアへの直接の武器使用について慎重な姿勢をとってきたが、ロシアがハルキウで攻勢を強めるなか、大きな方針転換を行った。

⑤2024年6月3日、ウクライナ軍は、西側諸国が供与した兵器を使用してロシア領内にある地対空ミサイル「S300」の攻撃に成功したことを明らかにした。

 今回発表があった攻撃にどの兵器が使われたかどうかは不明である。

⑥2024年6月4日、米紙ニューヨーク・タイムズは、ウクライナが米国から供与された高機動ロケット砲システム「ハイマース」で越境攻撃を行い、ロシア西部のミサイル発射装置を破壊したと報じた。

 ウクライナ最高会議(議会)の安全保障委員会の副委員長を務めるチェルニエフ議員が同紙に明らかにした。