(2)ロシア領内攻撃に使用される可能性のある兵器

ア.多連装ロケット砲システム(Multiple Launch Rocket System:MLRS

 多連装ロケットシステムは、長射程(約30キロ)の阻止砲撃用として米陸軍が開発したもので、主にMLRSと呼ばれる。

 最も基本的な弾種は「M26ロケット」弾である。このほか射程延長型、「AT-2」対戦車地雷を搭載するタイプや、GMLRS(GPS誘導に対応したMLRS)、ATACMSなど様々な弾種を発射できる。

 M26ロケット弾は、全長3937メートル、直径0.227メートル、重量306キロ、最大射程は32キロ。64個の「M77」子弾を搭載するクラスター爆弾である。1発でおよそ200×100メートルの範囲に被害を与える。

イ.高機動ロケット砲システム(High Mobility Artillery Rocket System:HIMARS)

 高機動ロケット砲システムは、長射程の阻止砲撃用として米陸軍が開発した装輪式自走多連装ロケット砲である。

 HIMARS(ハイマース)と呼ばれ、多連装ロケット砲(MLRS)の小型版として開発された。

 MLRSは、その輸送に「C-5 ギャラクシー」や「C-17 グローブマスター」 など大型輸送機が必要であるのに対して、HIMARSは「C-130 ハーキュリーズ」など中型輸送機で輸送が可能である。

 また、HIMARSはMLRSで運用可能な各種のロケット弾とミサイルを含むMFOM(MLRS=Family Of Munition rockets and artillery missiles)と呼ばれる兵器群をすべて発射することができる。

 MFOMの兵器群は下図1の通りである。

図1 MFOMの兵器群

出典:ロッキード・マーチン社ファクトシート

 HIMARSはM26ロケット弾なら6発、ATACMS地対地ミサイルなら1発を収納可能である。

 それぞれの射程は、GMLRS(GPS誘導型ロケット)で70キロ、ATACMSで300キロである。

 GMLRSは、ロッキード・マーチン社のファクトシートでは70キロとなっているが、メディア等では80キロとされている。

ウ.陸軍戦術ミサイルシステム(ATCMS)

  陸軍戦術ミサイルシステム (ATCMS;エイタクムス) は、米陸軍の地対地ミサイル (Surface-to-surface missile:SSM)の一つである。

 米陸軍を中心に使用されている MLRSやHIMARSから発射される。射程は300キロで、弾頭の誘導方式は慣性誘導+GPSである。

 攻撃ヘリコプター以外で100キロ以上の遠距離目標を攻撃する兵器を持たなかった米陸軍は、ATACMS導入により自前の遠距離対地攻撃能力を手に入れたとされる。

 米紙ニューヨーク・タイムズは4月24日、ロシアが占拠する南東部の港湾都市ベルディヤンスクに対する23日夜の攻撃で、長射程のATACMSが使用されたと伝えた。

 国務省のヴェダント・パテル報道官は4月24日、「大統領の直接の指示で、米国がウクライナに長距離ATACMSを供与した」と説明した。

エ.SCALP-EG/ストーム・シャドウ(Storm Shadow)空対地巡航ミサイル

 SCALP-EG(仏製)/ストーム・シャドウ(Storm Shadow)(英製)は、フランスと英国が開発した射程250キロの巡航ミサイルである。

 英国仕様は航空機により空中から発射されるが、フランス仕様は大型艦艇や潜水艦からも発射できる。

 450キロのブローチ弾頭を備えている。 ブローチ弾頭とは2重弾頭で、1段目が土やコンクリートを貫通し、2段目で目標に打撃を与える。

 この弾頭により、強固なコンクリート製の建物やバンカー、地下司令部などへの攻撃が可能である。

 また、対艦攻撃もできるので、敵海上戦力に打撃を与えられる。

 誘導方法は、GPS誘導、慣性航法誘導、地形プロファイルマッチング、赤外線画像誘導の4つを使う。目標の設定は発射前に行う必要があり、発射後に変更することはできない。

オ.KEPD 350タウルス空対地巡航ミサイル

 ドイツとスウェーデンが共同開発した「タウルス」は、ステルス性を備え、亜音速で飛行し、射程は500キロ以上に及ぶ空対地巡航ミサイルである。

 タウルスは射程が500キロあり、ウクライナの支配地域からモスクワに届くとされ、ウクライナ側が供与を強く求めている。

 しかし、ドイツのショルツ首相は「戦争の当事者にはならない」として、ドイツが戦闘に巻き込まれることを懸念し、供与を拒否し続けている。

 だが、野党だけでなく連立与党内からも供与を決定するよう求める声が上がっているという。

 米国のATACMS(エイタクムス)を供与するという決定が、ドイツの「タウルス」供与を後押しをするのではないかと見られている。