1. ウクライナへの資金・軍事支援の再開

(1)経緯

①2024年2月1日、ヨーロッパ連合(EU)は臨時の首脳会議で、ウクライナに対する資金支援について協議を行い、去年(2023年)12月の会議では反対したハンガリーも含め27すべての加盟国が、今後4年間で500億ユーロ、日本円で8兆円規模の支援に合意した。

 EUのシャルル・ミシェル大統領はSNSで、「この合意はウクライナへの長期にわたり揺るがない計画に沿った資金支援を確実なものにする。EUはウクライナへの支援において、リーダーシップをとり、責任を果たしていく」と意義を強調した。

②2024年3月11日、米情報機関トップらは、上院情報特別委員会の公聴会で、ウクライナ情勢について、情勢の行き詰まりによってロシアに「勢いがシフトしつつある」と指摘した。

 ロシアは2023年終盤以降、継続的かつ漸進的に戦果を上げており、ウクライナに対する米国と同盟国からの今後の軍事支援に関する不確実性が恩恵になっているとの見解を示した。

「この行き詰まりは、戦略面でのロシアの軍事的優位につながっており、ロシアに有利な方向に勢いがますますシフトしつつある」とした。

 米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官は「ウクライナ人は勇気と不屈さを失いつつあるのではない。彼らは弾薬を切らしつつあり、我々は彼らを助けるための時間切れになりつつある」と証言した。

 また、米軍の追加支援がなければ「ウクライナは2024年に形勢が不利になる可能性が高く、恐らく大いに不利になる」と警告した。

(出典:ブル-ムバーグ2024年3月12日)

③上記の公聴会等を受けて、2024年4月23日、米上院はロシアの侵略を受けるウクライナへの約610億ドル(約9兆4000億円)の支援を含む追加予算案を超党派による賛成多数で可決した。

 バイデン大統領が24日に署名し、予算は成立した。バイデン政権は同日、対空ミサイルや砲弾など10億ドル規模の緊急兵器支援を発表した。

 これを受けて米国防総省のロイド・オースティン長官は4月26日、チャールズ・ブラウン統合参謀本部議長と共に記者会見し、ウクライナに対して単体としては過去最大となる60億ドル(約9500億円)規模の追加支援を発表。

「パトリオット」迎撃ミサイル、中高度防空ミサイル・システム「NASAMS=National/Norwegian Advanced Surface to Air Missile System」用のミサイル、高機動ロケット砲システム「HIMARS=ハイマース」用の弾薬、対ドローン・システム、相当量の砲弾などが含まれると説明した。

 さらに、オースティン長官はウクライナの状況について次のように強調した。

「ウクライナと欧州と米国にとって、どういう危険が迫っているのかを理解する必要がある」

「もしプーチンがウクライナで勝利すれば、欧州は私たちが生まれてこの方、経験したことのない安全保障の危機に直面する。ロシアはウクライナでやめたりしない」

(出典:BBCニュース2024年4月27日)

(2)筆者コメント

 西側民主主義国家の指導者は、もしプーチン大統領が勝利すれば、中国の習近平国家主席をはじめ世界中の権威主義的な国の指導者に「軍事力を使えば欲しいものが手に入る」という危険なメッセージを送ることになると考え、ウクライナを支援してきた。

 しかし、米欧各国にも「ウクライナ支援疲れ」が見え始め、ウクライナ支援が滞り、ウクライナ軍は武器弾薬の不足により戦場において劣勢に立たされ、敗北の瀬戸際に立たされていた。

 そのような中、バーンズCIA長官は、米上院情報特別委員会の公聴会において、今ウクライナを助けないと手遅れになると証言した。

 この証言を受けて、覚醒した米国の指導者はウクライナへの支援を再開した。