重要拠点をピンポイントで叩けるHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System=高機動ロケット砲システム)はロシア軍にとって脅威であり続けている(写真は5月10日、ポーランド沿岸でのNATO=北大西洋条約機構軍の訓練、米陸軍のサイトより)

1.ハルキウ正面ウクライナ軍陣地突破できず

 ロシア軍は5月10日、ハルキウ正面から攻撃を開始した。

 その兵力は3万~5万人という。概ね10日ほど経過したが、国境から5~10キロを前進したものの、ウクライナ軍の陣地を突破できずにいる。

 ロシア軍は、戦闘に慣れていない不十分な戦力で戦っている。ロシア軍の力不足という印象だ。

 とはいえ、ウクライナ軍は予備戦力をこの正面に転用せざるを得なかった。

 ウクライナ軍は、事前に準備した前方陣地と主陣地で、防御戦闘をほぼ計画通り実施している。

 ウクライナ軍の主陣地は、国境よりも5~10キロほど後方にあるので、陣前までは前進されている。

 これは、侵攻を止めるためには、当然の戦術である。ウクライナ軍にとっては、ほぼ、予期した通りの戦いであると判断できる。

ロシア軍、ハルキウ正面の占拠範囲

出典:米国戦争研究所storymaps(2024年05月18日15:00)に筆者が注釈を挿入

2.ハルキウ正面攻撃は「戦力分散」で失敗

 ロシア軍がハルキウ正面の攻撃を開始する前、どの地域を重点に攻撃していたかというと、アウディウカからオチャレティネ、バフムトからチャシフヤールの地域だ。

 特に、アウディウカからオチャレティネへの攻撃では、アウディウカの要塞を奪取し、その後ウクライナ軍の防御の一線を破り、陣内戦闘に入っていたところである。

 この戦闘については、JBpress『武器弾薬が届くまでの隙をついたロシア軍の猛攻、ウクライナ地上軍に危機迫る(2024.5.9)』に、「ウクライナ軍がアウディウカの地域で、ロシア軍の攻撃を止められるか、突き抜けられて、戦果拡張されるかで、今後の戦況は大きく変わる。ウクライナ軍は今、その瀬戸際にきている」と書いた。

アウディウカ方面での攻防

左:現状、右:ロシア軍が強大な戦力投入した場合、出典:米国戦争研究所storymaps資料を参考に筆者が作成

 ロシア軍がハルキウに投入している3万~5万人という強大な戦力を投入して戦えば、ウクライナ軍の武器弾薬不足を突いて、この地での作戦は上手くいったはずだ。

 この地で突破口を形成し、それを拡大し、ウクライナ軍の防御の一つを突き破れたかもしれなかったのだ。

 しかし、ロシア軍は3万~5万人の戦力をアウディウカ方面に投入せずに、ハルキウ攻撃に投入してしまった。

 このため、アウディウカ方面は大きく進展することはなく、ハルキウ正面もウクライナ軍防御を突き破る戦果を出してはいない。

 ロシア軍は、中途半端な攻撃で、自滅の兆候が出ている状況だ。