2024年7月5日、政府は、中国の海洋調査船「向陽紅22」が太平洋の「沖ノ鳥島」北方に位置する日本の大陸棚(「四国海盆海域」)の海域にブイ(浮標)を設置したことを明らかにした。
中国のブイは、これまで沖縄県・尖閣諸島周辺で確認されていたが、太平洋側では初めてである。
目的や計画などの詳細を示さないまま設置したとして、林芳正官房長官は記者会見で「遺憾だ」と表明するとともに、「中国の海洋活動全般に様々な懸念や疑念がある」と指摘した。
海洋の法的秩序の根幹を成す「国連海洋法条約」は、排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)(以下、EEZとする)および大陸棚における「海洋の科学的調査」について、沿岸国の同意を義務付ける一方で沿岸国は通常同意を拒絶できないとする「同意レジーム」を柱に、具体的な手続き規定を設け、沿岸国と調査国の権利義務を定めている。
我が国は、国連海洋法条約等に基づき、我が国の大陸棚および排他的経済水域において、外国が「海洋の科学的調査」を行うことは我が国の同意がない限り認めないこととしている。
このため、外国海洋調査船等に対し巡視船艇・航空機により監視を行い、我が国の同意がないものに対しては、現場海域において中止要求を行うとともに、外務省等関係機関に速報するなどにより対処している。
さて、上記の日本の指摘に対して、中国側は「ブイは津波観測用で、日本が大陸棚に対して有する主権的権利を侵害するものではない」と応じたという。
筆者は、今回の中国のブイの設置は、沖ノ鳥島を基点とするEEZと大陸棚の設定は認めないとする中国の意思表示であり、かつ中国は将来この海域をなし崩し的に中国海軍が自由に航行できる公海にしようとする思惑があると見ている。
沖ノ鳥島について、日本は沖ノ鳥島は国連海洋法条約のもとでも島であり、沖ノ鳥島を基点にしてEEZと大陸棚を設定することができるとの見解を示している。
一方、中国は、沖ノ鳥島は国連海洋法条約121条3項で規定されている岩であるので、沖ノ鳥島を基点としてEEZと大陸棚を有することはできないと主張している。
日中の主張の詳細は後述する。
沖ノ鳥島を取り巻く危機には、地球温暖化によって水没する危機と同島の法的地位が「島」から「岩」へ変わる危機がある。
本稿では、沖ノ鳥島を取り巻く危機への対応と、沖ノ鳥島近海で活発に活動する中国海軍の狙いについて述べてみたい。
以下、初めに沖ノ鳥島の概要について述べ、次に日本政府による大陸棚限界延長申請と中国による口上書の提出について述べ、最後に西太平洋海域へ進出する中国の狙いについて述べる。