中国の南シナ海における領有権主張を無効とした常設仲裁裁判所の判決から8周年となった日に、フィリピンのケソン市で集会を開きスローガンを掲げるデモ参加者たち(2024年7月12日、写真:AP/アフロ)

(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)

 南シナ海南沙諸島のセカンド・トーマス礁を巡って中国とフィリピンが争っている。今年(2024年)3月にはセカンド・トーマス礁周辺で中国海警局の艦船がフィリピンの補給船に放水銃を発射し、負傷者が出た。

 地図を見るとセカンド・トーマス礁はフィリピンに近く、中国からは遠い。中国がそこを自国の領土と主張することは明らかに無理筋である。中国はなぜそんな環礁を領土と主張するのであろうか。

セカンド・トーマス礁

 多くの日本人はそのように主張する原因が習近平と中国共産党にあると考えている。しかしその認識は間違っている。南シナ海のほぼ全ての海域(「牛の舌」とも呼ばれる)を中国の領海としたのは中華民国である。中華人民共和国の成立は1949年だが、中華民国はその2年前の1947年に「牛の舌」を領海とした。

 中国は清朝まで領海に無頓着だった。それは中国がランドパワー(大陸国家)でありシーパワー(海洋国家)ではなかったためと考えられる。領海の重要性に気付いたのは第二次世界大戦を経験してからだ。

セカンド・トーマス礁に接近するフィリピンの補給船に対し放水銃を発射する中国沿岸警備隊(2024年3月23日、提供:Armed Forces of the Philippines/AP/アフロ)