イランの首都テヘランのビルに描かれた巨大な反米メッセージの壁画（資料写真、2025年4月12日、写真：ロイター/アフロ）
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（松本 太：一橋大学国際・公共政策大学院教授、前駐イラク大使、元駐シリア臨時代理大使）

　あなたは、「中東は、戦争や紛争ばかりで、近頃は一層混乱の極みでよく分からない」と思っていませんか。筆者も実は困ったもので本当によく分からないと言いたいところですが、一つだけ分かりやすい方法があるのですよ、と言えば、皆さんも関心を持っていただけるでしょうか。

　答えは簡単です。イスラエルが何を目指しているのかよく見極めることです。そして、そのイスラエルの目的に米国がどう対応するかがポイントです。

　この2つがはっきり分かれば、一見、究極の混沌にあるかに見える中東の血塗られた砂漠の上に、くっきりとした筋書きが浮かび上がってくるのですから。

ジェフリー・サックス教授が指摘するイスラエルの意図

　この点については、4月11～13日にトルコのアンタルヤにおいて開催された、トルコ外務省が主催したアンタルヤ・ディプロマシー・フォーラムでのジェフリー・サックス教授による率直な指摘は傾聴に値します（参考動画：“LIVE: UN Envoy Geir Pedersen on Syria’s Future at Antalya Diplomacy Forum 2025 | ADF 2025 | AC1G”）。ニューヨークのリベラルなユダヤ系知識人の代表格でもあるジェフリー・サックス教授の明晰な発言は多くのことを教えてくれます。

　すなわちサックス教授が指摘するのは、シリアをはじめとして中東地域で起きてきていることは、イスラエルの意図に従って、（イスラエルではなく）米国自身が混乱と戦争を引き起こしてきたという事実にあります。

　とりわけシリアにおいて米国は、アサド政権を崩壊させたかったイスラエルの意図に基づき、オバマ大統領による大統領令に沿って、CIAを通じて「ティンバー・シカモア」と名付けられた作戦を、2011年3月以降、地域諸国と協力して大々的に行ったとサックス教授は赤裸々に指摘しています。ティンバー・シカモアとは、シリア反体制派、（すなわち現在のシリア新政権の中核を占めることになる）イスラム主義過激派武装勢力に訓練や武器供与などを支援する作戦でした。

　これまでイスラエルと米国は、シリアを含めて政権交代を目指した6つの戦争を展開してきたと教授が結論づけるに及んでフォーラムの会場は静まり返りました。