ただし、今回の交渉の目的が、イランの核能力を根こそぎ取り除くことを目指すのであれば、交渉は自ずから失敗に終わるでしょう。そもそもイランは平和的な核利用の権利を自ら放棄することは決してないと言っているのですから。
一方、ウィトコフ特使は交渉直前に次のように述べています(参考:“Witkoff Says U.S. Open to Compromise Ahead of Iran Nuclear Talks”,The WALL STREET JOURNAL)。
「我々の立場はあなたのプログラムの廃棄から始まると思っている。これが今日の我々の立場である。これは両国間で妥協点を見つける他の道を探さないということを意味するわけではない。我々のレッドラインは、あなたがたの核能力の兵器化はあってはならないということだ」
これは、2018年に第一次トランプ政権が示したイランに対する立場と比べると、今回、米国は、交渉が始まる前から一定の譲歩を行う用意があることを示しているように見えます。
かつてトランプ政権はイランに対して、ICBMを含め核爆弾搭載能力のあるミサイルの開発や、地域におけるイランの代理勢力への支援の停止などを求めていました(参考:“President Donald J. Trump is Ending United States Participation in an Unacceptable Iran Deal”,The White House)。他方、この1年半の間にイランの代理勢力のほとんどが無力化された今日、ウィトコフ特使が、イランの核能力の兵器化阻止に絞って交渉を行おうとしているのは、極めて現実的なアプローチとも評価できるのです。
イランが望むものとは何か~制裁の解除~
今回のオマーンでの最初の交渉は、首都マスカット郊外にあるバドル・オマーン外相の自宅で、紙に書かれた双方のメッセージを同外相がアラグチ・イラン外相とウィトコフ特使にそれぞれ運ぶ形で行われました。米イラン間で短時間の挨拶は行われたものの、イランの望む間接交渉であったと伝えられました。これまでイランは、核と制裁についてのみ間接交渉の用意があると言い続けてきましたから、イランの顔が立った形です。
もっとも、その後、実際には両者が直接45分間にわたって会談したことが判明しています。また、両者ともにポジティブで建設的な会談であったと評価しており、改めて本日19日に引き続き交渉が行われることになっています。
交渉では、アラグチ外相はウィトコフ特使に対して、イランの主要な目的は米側の誠実さを確認し、合意に至る可能性を見極めることにあると伝えたと言われています。テヘラン・タイムズによれば、アラグチ外相は次のようなメッセージを米側に伝達しています。