・イランは双方がウィン・ウィンの関係となることを期待しており、いかなる場合であれ、イランはその核プログラムを放棄することはないが、軍事化にはつながらない保証を与える措置をとる。
・イランの核施設にアクセスが許されるのはIAEA(国際原子力機関)のみである。これらの措置の見返りに、イランはいくつかの分野における制裁が取り除かれることを望む。
・一旦、制裁が解除されれば、いかなる理由であれ米国は制裁を再発動できない。
このようなイラン側の公式な立場が受け入れられ得るとの感触を得つつ交渉が始まったことから、総じてオマーンでの第1回の交渉後のイラン側の反応は前向きなものとなっています。
今回、イラン革命防衛隊を筆頭とするイラン強硬派が米国との交渉には反対したにもかかわらず、ハメネイ最高指導者が交渉の参加に踏み切った背景には、米国とイスラエルの攻撃を受け、イランが戦争を行わざるを得ない状況になれば、イラン政府とイラン国民の人心が離れ、現在のイランの体制の維持が極めて難しくなるとの考えもあったのです。
アラグチ外相をはじめとするイランの交渉担当者は、この幸先のよい交渉スタートにひとまず胸をなでおろしているでしょう。トランプ政権が許容した交渉の機会を、イラン側はいつも戦略的忍耐をもって最大限活用しようとすることは間違いありません。例えば、オマーンでの交渉を終えたアラグチ外相がハメネイ最高指導者の親書をもって、プーチン大統領を早速訪ねていることはイランの機敏な外交的な動きです。
米国が望むものは何か~ウラン濃縮の限定と検証問題
それでは、米側はどのような立場をイラン側に伝えたのでしょうか。米国代表として交渉を担ったウィトコフ特使は何と言っているかがポイントです。4月14日に放映されたFOXニュースのインタビューで(やはりトランプ政権においてはFOXニュースを見るに限ります)、ウィトコフ特使は以下のポイントに言及しています。
・イラン側との交渉では2つの重要なポイントがある。一つは濃縮問題(enrichment)である。イランによるウラン濃縮は3.67%を越えるものであってはならない。60%や20%の濃縮プログラムは不要である。
・もう一つは検証(verification)である。また、この点には、ミサイルや起爆装置といった兵器化についての検証も含まれる。厳しい検証が必要。過去数年にわたってしっかりとした検証が行われてこなかった。こうした状況は変える必要がある。そうでなければ別のオプションを考える必要が出てくる。これは誰にとっても良い選択ではない。
ウィトコフ特使が指摘するイランのウラン濃縮の限度を3.67%までと規定するのは、JCPOA(包括的共同作業計画、イラン核合意)の規定そのままです。これは、通常の発電用軽水炉で活用するに十分な濃縮程度だからです。
一方、ウィトコフ特使はJCPOAそのものについては交渉では特段言及していないようです(参考:“What happened at Albusaidi's home on Saturday”,TEHRAN TIMES)。そもそも第一次トランプ政権でJCPOAを米国が離脱している以上、単純にJCPOAに戻るわけにはいかないという点は重要なポイントです。