イランの核能力の兵器化阻止に向けて動く米国
しかし、ウクライナに加えて中東でも「平和」を目指すトランプ大統領の考えは、ネタニヤフ首相のイランに対する強硬な姿勢とはいささか相容れないようです。
トランプ政権内では、イランとの交渉を追求するトランプ大統領やウィトコフ中東担当特使とイランへの攻撃を望むウォルツ安全保障担当補佐官やルビオ国務長官の意見が対立していたといいます。政権内で激しい議論が行われた結果として、最終的に米国とイランとの交渉というトランプ大統領の選択肢がネタニヤフに伝えられたのです。この背景には、イラン攻撃を行えば、米国とイランの間で大規模な紛争に拡大する可能性があるとの情報評価があったことは間違いないでしょう。
トランプ大統領は、イスラエル側を意識しつつ、イランに対して「交渉がまとまらなければひどい目にあうことになるぞ」と口頭でのボルテージを上げつつも、結局、イランとの交渉のためにウィトコフ中東担当特使をオマーンに派遣したのでした。
こうした平和を志向するトランプ大統領の意向を受けて、交渉の流れはすでにイスラエル側の期待を裏切るかのような展開を見せつつあります。
例えば、トランプ大統領との記者会見においてネタニヤフ首相は、かつて米国がリビアに核の完全廃棄を行わせ、その後、経済制裁を緩和した「リビア・モデル(リビア方式)」をイランにも適用することが望ましいと指摘しましたが、4月12日の米国のウィトコフ中東担当特使とアラグチ・イラン外相の間接交渉では、ネタニヤフ首相やウォルツ安全保障担当補佐官が求めていたリビア・モデルには一切言及されていません。
では、この交渉ははたしてまとまるのでしょうか。その答えは残念ながらまだ分かりません。
ウクライナやガザの交渉が、現在、起きている戦争を停止させることであるのに対して、イランとの交渉は、これから起こるかもしれない戦争を回避することにあります。少なくとも交渉当事者が戦争回避を強く望むのであれば、すでに起きている戦争を停止させることより、よほど容易なのかもしれません。