そもそもネタニヤフ首相が、この日にワシントンに呼ばれたのは、米国がイランとの間で交渉を行うという決断をしたことを米側がイスラエル側に伝えるためであったと言われています。決して、米国がイスラエルの要望に従って、イラン攻撃に協力することを協議するためではなかったのです。これは誰にとっても驚きでした。

 なにしろ、3月下旬にはインド洋の米軍基地ディエゴ・ガルシアに6機のB-2爆撃機駐機されていることが確認されていました。米空軍が保有するB-2爆撃機19機の内およそ3分の1に匹敵するのです。同爆撃機は、地中深い標的を攻撃できる最大のバンカーバスターGBU-57爆弾を搭載できます。

米空軍のバンカーバスター(地中貫通爆弾)GBU-57(DoD photo, Public domain, via Wikimedia Commons)

 また同時期に、アジアに展開していた米空母カール・ヴィンソンが中東への移動を命ぜられたことが判明するにつれ、米軍がイラン核施設攻撃をいつ開始してもおかしくない体制がとられていると皆が思っていたのです。

 そのような中でネタニヤフ首相は、まさか米国とイランの核問題をめぐる交渉の開始をトランプ大統領から告げられると想像したでしょうか。

 加えて、この首脳会談では、イスラエルが4月2日に米国から17%の関税をかけられたことを受け、ネタニヤフ首相訪米の直前に米国からの輸入品への関税をゼロにするとの決定をしたにもかかわらず、トランプ大統領からは関税引き下げの確約すら取り付けることができませんでした。

 さらにイスラエルとトルコの衝突の可能性が取り沙汰されるシリアに関しても、記者からの質問に答えたトランプ大統領は、自分は(トルコ大統領の)エルドアンという男が大好きだと前置きしつつ、両国間の問題を自分が解決できると述べ、ネタニヤフ首相の方を向いて、「(イスラエルも)分別をわきまえるように」と諭したのでした。

 2022年10月7日のハマースによるイスラエル攻撃以降、イスラエルは、イランの代理勢力である、ハマース、ヒズボッラー、アサド政権、フーシー派を次々と弱体化させ、これらの代理勢力を支えてきたイランとの直接対峙へと駒を進めてきました。3月15日以降の米軍によるフーシー派への攻撃の結果、イラン革命防衛隊のアドバイザーもイエメンからすでに撤退したと言われているほどです。

 このようにイランの代理勢力を通じた対イスラエル抑止能力が脆弱化したイランの状況は、イスラエル側にとってイラン核施設を叩くために絶好の機会となっていたのです。

 実は、この5月にも米国の支援を得て、イスラエルはイランを1週間以上も継続的に爆撃することを計画していたというのです。おまけに当初、ネタニヤフ首相は、奇襲部隊をイラン核施設に派遣して地上から破壊工作を行うことすら意図していたようです。(参考:“Trump Waved Off Israeli Strike After Divisions Emerged in His Administration”, New York Times)