中国が一方的に海洋権益を主張し、周辺国との間で領有権問題が生じさせている南シナ海で、フィリピンと衝突する出来事が、また発生している。
衝突の舞台となったのは、南シナ海南沙諸島のアユンギン礁(英名セカンド・トーマス礁)。ここは1999年にフィリピンが意図的に軍艦を座礁させ、海兵隊員を常駐させることで実効支配を続けている海域だ。
フィリピン沿岸警備隊(PCG)が明らかにしたところによると、8月5日午前9時ごろ、アユンギン礁周辺海域で座礁船「シエラ・マドレ」に食料や日用品などを補給する民間のチャーター船と、随伴していたPCGの巡視船「マラブリゴ」に、中国海警局の5305、4203など複数の船舶が接近し、並走しながら放水を浴びせて進路妨害したという。
フィリピンの補給船をたびたび妨害
アユンギン礁ではこれまでも補給作業にあたるフィリピン船舶への妨害が度々行われてきた。今年2月にはアユンギン礁に補給に向かう船舶に同行していたPCGの巡視船に、中国海警局の船舶が火器管制用のレーザーを照射、PCGの乗組員に一時視覚障害を与えるという事件も発生している。
これが次第にエスカレートしているのは、昨年6月にフィリピンの大統領が、親中路線をとってきたロドリゴ・ドゥテルテ氏から、親米路線を志向するフェルディナンド・マルコス・ジュニア氏に代わったことと無関係ではないだろう。
今回の中国海警局側の放水によって、フィリピン側の補給船は「シエラ・マドレ」への物資補給を断念せざるを得なくなった。常駐する海兵隊員への食糧などの補給はまさしく彼らの「生命線」であることから、フィリピン側では数週間以内に再度補給を試みる方針だが、そこで中国側が再び同じような妨害工作にでるようならば、両国の対立はいっそう先鋭化することになりかねず、国際社会も事態の推移を注視している。