魏哲家CEO(写真:UPI/アフロ)

 半導体ファウンドリー(受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は先ごろ、米国に1000億米ドル(約15兆円 )の追加投資を行うと発表した。トランプ米大統領の「台湾はアメリカの半導体産業を盗んでいる」との批判をかわす狙いもあるとみられるが、この新規計画には具体性が乏しく、投資家の間では大規模投資による収益悪化や米政府からの圧力再燃への懸念が広がっている。

トランプ氏の批判沈静化も投資家は懸念示す

 TSMCの魏哲家・董事長(会長)兼CEO(最高経営責任者)が発表した今回の追加投資は、トランプ大統領の対台湾批判を一時的に沈静化させた。トランプ氏は態度を軟化させ、TSMCの投資によって半導体製造の「大部分」が米国内に移管されるとの期待感を示した。しかし、投資家は懸念しているようだ。英フィナンシャル・タイムズ(FT)によれば、投資家は、①TSMCがトランプ氏の高い期待に応えられなければ再び攻撃対象になる、②米国での急速な大規模生産拡大が同社の高い利益率を押し下げる、という2つのリスクを懸念している。

追加投資は既定方針? 計画の具体性に乏しく

 今回発表された1000億米ドルの追加投資は、TSMCが過去に発表した追加投資(2022年後半に400米億ドルへ、2024年4月に650億米ドルへ、それぞれ引き上げ)と比較して、詳細が乏しいと指摘される。過去の発表では、工場の建設開始時期、導入する製造プロセスの世代、量産開始予定、生産量などが明示されていた。

 しかし、今回は、米西部アリゾナ州フェニックスで既に完成した第1工場、及び建設中の2工場に加え、新たに3つの半導体工場、2つの先端パッケージング施設、研究開発(R&D)拠点を建設するという大枠が示されたにとどまる。

 加えて、今回の投資計画でも、最先端技術を生み出す研究開発の核心部分は台湾にとどまる見通しだ。アリゾナに設置予定のR&D施設は、量産技術の微調整が主目的とされ、次世代技術の開発拠点とはならない。米国の専門家からは「TSMCのR&D戦略は、米国の世界における技術主導権確立に寄与しない」といった意見も出ているという。

 また、TSMCに近い関係者は、1000億ドルの追加投資は、長期計画の一部に過ぎず「既定の方針」との見方を示している。同社は2020年にアリゾナで6工場分の用地を取得済みで、この時点で拡張計画を進める考えがあったと指摘される。