川辺川(写真提供:清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会)
あゆ、こい、ふな、うなぎ、やまめ、もくずがに、てながえび、すっぽん・・・。これらは、2025年5月16日、川辺川ダム建設のために、球磨川漁業協同組合(以下、球磨川漁協)の漁業権を、国土交通大臣が国土交通大臣に「収用・使用」したいと申請した漁業権に関わる魚種だ。
「国土交通大臣が国土交通大臣に」とは、ダム事業を進める国土交通大臣が、土地収用法を所管する国土交通大臣に、別人格として申請する行政手続の特徴だ。
憲法29条は「私有財産は正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と定めている。土地収用法で、事業に「公益性」があることを確かめる手続(以下、事業認定)で、それに伴い補償金額等を決めるものだ。しかし、公益性を主張する側と、その有無を判断する側は、同一で、後者が前者の主張を否定するわけもない。同一人物が「右手で申請、左手でハンコ」を押すようなものだ。
儀式と化した「事業認定」をもとに事業は推進される。問題は、その「公益性」が本物なのかである。
公聴会で無視された市民の声
事業認定に第三者の目が唯一入るのは、公聴会だ。2025年9月5日、6日に、公募による公聴会が川辺川ダム予定地から約20km下流の人吉市で開かれた。52名が公述を申し込んだが、半数近い24名が拒否された。陳述を許された28人中22人が、一般市民として、公益性の欠如や環境への悪影響を訴えた。残り6人がダム事業を推進する立場を持つ、国土交通省職員や同省の審議会委員を務める有識者、人吉市長、熊本県議会議員などだった。
人吉市に暮らすリバーガイドの木本ちひろさんの公述には悔しさが滲み出ていた。
「国土交通省は『アユや水質に影響しない』と繰り返していますが、根拠のない断言であり、現場の声を無視しています。(略)私はリバーガイドとして長年、川を見てきました。(略)国土交通省による『清流』の基準は、環境基準SS25mg/L(透視度25cm)以下であり、これが守られる限り『清流は失われない』としています。しかし透視度25cmとは、わずか25cm下の川底しか見えない状態です。これを清流と呼ぶ流域住民はいません。私たちが清流と感じるのは透視度180cm以上の、川底まで見渡せる美しい水です。(略)国土交通省が掲げる『公共の利益』は虚構であり、この事業は公益性を欠き、むしろ不利益を生むものです。自然と共に生きてきた住民や漁師の声に真摯に向き合い、清流の本当の意味を理解すべきです。」(清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会HPより)
ダムのある球磨川本流(右)に合流する透明度の高い川辺川(左)(写真提供:清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会)