目的と効果の対象地域がズレている洪水想定
なぜ、そこまで説明を避けるのか。「事業評価カルテ」と、添付されている「費用便益分析に関するバックデータ」を見ればわかった。木本さんの質問の通り、球磨川流域全体の一般資産約4兆円中、8割をも占める八代市周辺で球磨川が氾濫し、その被害が川辺川ダムの完成で軽減できるという、現実とは乖離した机上の計算が行われていた。
一方、川辺川ダム事業の「目的・必要性」の欄には、2020年洪水で6280戸の浸水被害、2カ所の堤防決壊、14橋梁の流出被害があり、50名の犠牲者が出たと書かれている。一見すれば、川辺川ダムは人吉市の被害を低減することが目的に見える。だが、根拠データは八代市の氾濫想定だ。両者に整合性はない。目的と効果がズレていて、なぜと聞かれても、説明がつかないのだろう。
出典:国土交通省ウェブサイト「事業評価カルテ」の検索で出てくる2025年度川辺川ダムの事業再評価
では少なくとも目的は正しいのか。言い換えれば、川辺川ダムがあったら50人は助かったのか。
これについては「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」の被災したメンバーらが足で歩いて聞き取りを行った結果、人々が命を落としたのは川辺川とは関係のない場所だった事実を記録し、国土交通省に豪雨被害の共同検証をしようと持ちかけても実現してこなかったことは、既報した通りだ。
(参考)
・「熊本・球磨川の災害の影に隠される瀬戸石ダムの『構造令』違反問題」(2023.9.30)
・「3年前の豪雨球磨川水害の教訓、現行のハザードマップだけでは命を守れない」(2023.11.1)
・「3年前の熊本豪雨、鉄道橋梁の『ダム化・決壊』の実態なぜ誰も検証しない」(2023.12.1)
盛られた治水効果では人は守れない。昨年12月にヒアリングを実施した衆議院議員たちは、1月の総選挙で全員が落選してしまった。この問題を正す役割を引き継ぐ衆議院議員は現れるのか。命を守るための治水を志向する市民は、清流を未来に手渡す価値と公益性のない事業に税金を浪費する愚かさを、人に知らせる基本に立ち返るしかなさそうだ。






