【写真1】写真:村山嘉昭(2020年7月14日)

 豪雨災害の影に隠れ、未検証のまま3年が経過した「水利権」問題がある。しかも、それが2020年7月の豪雨災害を拡大させた可能性がある。

 そのため、国土交通省が電源開発株式会社(以後、電源開発)に水利権を許可した球磨川の発電専用「瀬戸石ダム」(熊本県芦北町/球磨村)について、熊本県内の住民団体が問題を問い続けている。

 水利権と豪雨災害がどう関係するのか、順に話を進めることにする。

災害防止の法令が適用されない65年前のダム

 発電専用ダムは治水機能を持たない。それどころか、発電のために、川を堰き止め、水位を高めることが求められている。そこで、河川法は、そのような工作物が災害の原因とならないよう、水利権(第23条)を許可する際は、同時に工作物の新改築の許可(第26条)を得なければならないと定めた。

 また、1976年には、第26条を補完する「河川管理施設等構造令」(以後、構造令)を定め、ダム、堰、橋などの構造に対する規制が設けられた。その際、それ以前からあった工作物には構造令は適用しないが、改築時に適合させよとの経過措置を定めた。

 1958年に建設された瀬戸石ダムは、まさにそれ。半世紀近く、構造令の適用除外だ。その構造は次のようなものだ。

 川底から11.5mの高さでコンクリートの堰堤を作り、5本の堰柱で鋼鉄ゲートを上げ下げする可動堰だ(写真2)。ゲートを締め切れば高さ26.5m。右岸と左岸をつなぐ連絡橋がゲートの上流側に敷設され、橋の橋脚とゲートの堰柱は一体だ。

 洪水時にゲートを全開しても、水の通り道は、堰柱間の縦15m幅15mの5水門のみ。

 本来ならこれは構造令違反だ。構造令では4000m3/秒以上の流量が想定される川に作る可動堰の堰柱間は40mなければならない。瀬戸石ダムは堰柱間を6000m3/秒が流れる設計となっており、幅15mでは狭過ぎる。

 1958年には建設が可能だったが、1976年の構造令ができた後なら、水利権許可を得られなかったのが、瀬戸石ダムである。

  【写真2】豪雨10日後の瀬戸石ダム(2020年7月14日、村山嘉昭撮影)