(写真:アフロ)

「何のことだろう?」と気になるタイトルで静岡新聞が始めた「サクラエビ異変」が4年半の連載を閉じた。駿河湾へ注ぐ富士川流域に暮らす人々を巻き込み、行動に駆り立て、記者はさらに調査を深めて、また一歩進む。「課題解決型報道」としてジャーナリズムの世界でも注目された。その連載を担当した坂本昌信記者(現在、静岡新聞清水支局長)に話を聞いた。

暴かれた国策民営会社、日本軽金属株式会社の悪事

――2018年春の漁獲減少を契機に、富士川の上流から下流にかけて起きている問題を報じていきました。第1章は「母なる富士川」として上流で問題になっている堆砂問題から始まりましたね。

「静岡新聞では編集局全員でキャンペーン連載のテーマを話し合って決めるのですが、その年はサクラエビの不漁に決まりました。

 サクラエビ漁は1894年に富士川河口で、アジの船引き網漁で偶然かかって始まったとされます。現在では静岡県民のソウルフードとも言われる食材ですが、取材を始めると思いのほか、漁獲規制や食の話だけではないと気づきました。不法投棄、不正取水など情報が寄せられました。関心を持つ人々がつながっていって住民運動が起きていきました」

――富士川支流の早川上流部では、本社を東京に持つアルミニウム加工大手、日本軽金属株式会社(以後、日軽金)の雨畑ダム(山梨県早川町)で深い谷が埋まりました。連載開始後の2019年の8月と10月の台風では、ついにダム湖の120%が土砂で埋まり、上流側の雨畑地区で浸水被害が起きました。

「日軽金は国策民営会社です。戦時中(昭和15年)に戦闘機用のアルミニウム増産のために、富士川河口近くに蒲原製造所(現在の静岡市清水区)を建て、山梨県から富士川の水を導水管で引き込んで、80年余、発電を続けています。東京電力の発電も合わせると、富士川の水利権の76%が発電用水です。環境保全が目的に加わった1997年の河川法改正以降も、動植物の生息にも配慮した河川維持流量すら設定されないまま、東京資本の企業に搾取され続けている川でした。

 国交省はダムの総貯水量約1365万立方メートル(m3)を超える1631万m3の土砂が堆積(2020年3月末時点)していると明らかにしています。

 日軽金は住民に謝罪し、2020年4月、国、山梨県、早川町が設置した『雨畑地区土砂対策検討会』で、『雨畑ダム堆砂対策基本計画』を提出しました。2024年度末までに600万〜700万m3の土砂を撤去する計画で進めていますが、上流から毎年平均50万m3の土砂が流入し続けることは計算に入っていません。

 ダムの設置許可を与えた国に、ダム撤去や水利権の取り消しを質問主意書で求めた国会議員もいますが、政府は『現時点では考えていない』と解決を先延ばししています。国策民営の後始末が本来なら必要です。浸水被害を受けた集落は過疎地で、人がいなくなるのを待っているとしか思えません」

【写真1】雨畑ダム上流左岸の雨畑地区の一角(写真手前)。中央は、2019年の台風で上流(写真右側)から押し寄せた土砂から集落を守る矢板。2列の矢板で土砂を挟み、その上部に元々道路があった場所にアスファルト道路を通した。その向こうに広がる鼠色は、右岸によけた土砂。異様な光景だ(2021年2月筆者撮影)