ミュンヘン安全保障会議に出席したドイツのメルツ首相(写真:ロイター/アフロ)
安全保障に関する欧州の考え方に大きな変化が現れています。勃発から4年が過ぎても終わらないウクライナ戦争を背景に、ドイツやフランスなどが「ロシアの脅威に対抗するため、欧州の核抑止力強化を」と訴えているのです。軍事力の行使をためらわない米国の姿勢も相まって、世界では核戦争のリスクが消えていません。核をめぐって欧州で何が起きているのでしょうか。やさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
独メルツ首相の危機感
2月中旬、ドイツでミュンヘン安全保障会議が開かれました。民間主催による世界最大級の安全保障会議で、1962年から毎年2月に開催されています。欧州主要国の首脳・閣僚をはじめ、世界各国の要人が参加。その時々の国際情勢に沿って、安全保障問題について幅広い議論が行われます。
ことしの会議で注目されたのは、開催国ドイツのメルツ首相の演説です。
メルツ首相は、ロシアによるウクライナ侵攻で欧州は新たな戦争段階に入ったと発言したうえで、「国際秩序はもはや存在しない」と断言しました。そして、「NATO(北大西洋条約機構)内での核共有を基盤とした核抑止を検討し、欧州の安全保障をくまなく整える」と訴えたのです。
さらにメルツ首相は「欧米の間には深い溝ができた」と語り、「われわれは欧州を強化する。欧州の主権を確保することが新しい時代における最善の対応だ」とも強調しました。米国の力に頼らず、英仏が持つ核抑止力を欧州全域に拡大すべきだとの主張です。そして、この構想に関して、すでにマクロン仏大統領と話し合いを始めたことも明らかにしました。
なぜ、この発言が飛び出したのでしょうか。
最大の要因はウクライナ戦争です。ロシアは今からちょうど4年前、2022年2月にウクライナへ軍事侵攻し、その直後、同国のプーチン大統領は軍の核抑止部隊に「特別警戒態勢」に入るよう命じました。「核抑止」とは一般に、核による報復能力があることを示し、自国への核攻撃を思いとどまらせることです。プーチン氏はウクライナやNATO諸国に対し、限定的な核使用の可能性を示し、ロシアへの攻撃を防ぐ姿勢を鮮明にしたと見られています。
さらにロシアは2024年、核ドクトリンを改定し、「通常戦による攻撃で国家主権と領土の一体性に深刻な脅威を受けた場合は核を使用する条件となる」との内容を加えました。核攻撃を受けなくとも、通常兵器による攻撃があれば核で報復するという脅しです。実際、ロシアは同年、ウクライナやNATO諸国と国境を接するベラルーシに、核搭載可能なミサイルを配備したと報じられました。
