「ミネアポリスの悲劇」を契機にICEへの抗議が全米に広がっている(写真:AP/アフロ)
第2次トランプ政権の発足から1年。米国では今、「移民・税関捜査局(ICE: Immigration and Customs Enforcement)」職員による相次ぐ発砲事件が大問題となっています。中西部ミネソタ州ミネアポリスでは、不法移民とは無関係の市民がICE職員に撃たれ、死亡する事件も発生しました。米国民を震撼させるICEとは、どんな組織なのでしょうか。相次ぐ事件の背景には何があるのでしょうか。やさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
ミネアポリスの悲劇
ICE捜査官による「殺人事件」がミネアポリスで起きたのは1月7日のことです。現地の報道によると、事件は次のようなものでした。
市内に住む詩人の女性、レネー・グッドさん(37)が市街地の路上でアイドリングさせながら車を停めていると、ICE捜査官がグッドさんの車を調べ始めました。ナンバープレートをスマートフォンで撮影したり、「車から降りろ」と命令したり。そしてグッドさんが車を発進させたところ、捜査官は運転席の窓越しにグッドさんの頭や胸を撃ち、死亡させたのです。
ICE側は、「グッドさんが捜査官を車でひこうとした」として正当防衛を主張。ICEを傘下に持つ国土安全保障省(DHS: Department of Homeland Security)の長官も「彼女は国内テロに関与していた」と非難しました。
一方、現場の一部始終を撮影したビデオが報道されると、地元ミネアポリスの当局者は「グッドさんにはICE捜査官に危害を与える意図はなかった」とみています。ICEの役割は不法移民の摘発ですが、グッドさんは紛れもない米国市民でした。
「ミネアポリスの悲劇」はこれだけではありません。
1月24日には、看護師のアレックス・プレッティさん(37)が、やはりDHSの一機関でICEを補佐する形で配備されていた税関・国境警備局(CBP: Customs and Border Protection)の捜査官に射殺されたのです。プレッティさんはCBPによる取り締まりの様子をスマートフォンで撮影中、捜査官から催涙スプレーを浴び、倒れたところを撃たれました。プレッティさんも米国市民。銃を所持していたとされていますが、必要な許可を得てのものでした。
相次ぐ事件の背景には、ICEが2025年12月上旬に着手した「メトロ・サージ(大都市急襲)作戦」があります。これに基づき、ミネソタ州の最大都市ミネアポリス、および州都セントポールにはICEとCBPを合わせて約3000人の捜査官が派遣されました。地元警察官の数を超す規模とされています。
図表:フロントラインプレス作成
ミネソタ州はもともと民主党の強い地域で、ウォルツ知事は2024年の大統領選で民主党副大統領候補としてトランプ陣営と争った人物です。ミネアポリスの市長も民主党。同州ではほかにも2件、ICEによる銃撃事件が起きており、集中攻撃にはトランプ政権による政治的意図があるとの見方が出ています。
ICEによる市民への攻撃はミネソタ州にとどまりません。
2025年9月には大都市シカゴで、メキシコ出身の不法移民がICEの制止を振り切って車で逃げようとし、射殺されました。その後、カリフォルニア州ロサンゼルスや首都ワシントンDCなどで、ICE捜査官による銃撃が相次いでいます。トランプ大統領が推進する「不法移民追放」を遂行するため全米各地で強力な取り締まりが続いていますが、そうした中で銃撃事件は発生しているのです。