自然の楽園が大国の利権争いの主戦場になろうとしている

 日本から約1万キロも離れたインド洋でいま、「米中の新冷戦」と呼べる静かな戦いが始まっている。

 その中心地になっているのがモーリシャス共和国である。

 日本人には馴染みの薄い国であるが、ハネムーンやエコツーリズムの目的地として人気がある場所だ。

 いくつもの島々からなるモーリシャスの総面積は東京都よりもわずかに小さく、人口は約123万。

 そこがいま米中両国の権力闘争の震源地になっている。

 米国が戦略的な観点からインド洋を眺めたとき、モーリシャスは小国であっても極めて重要な場所といえる。

 というのも、同国の中心地であるディエゴ・ガルシア島は、宗主国英国政府によって米国に貸与されている所で、米軍はそこに海軍基地を置いているからだ。

 同基地は米軍にとってインド洋で最大の拠点で、湾岸戦争やアフガニスタン戦争、さらにイラク戦争時には「B-52」ステルス爆撃機をそこから出撃させている。

 モーリシャスから中東の紛争地域へは射程内の距離にあるのだ。

 米軍は、ロシアの南側や中国に向けて巡航ミサイルを発射することもできる。

 また、アフリカ北東部に位置するジブチからパキスタン、さらに重要な航路や貿易ルート、そして中国の潜在的な基地まで戦闘機を到達させることも可能だ。

 米国は英国から同地を2036年まで貸与されている。

 しかし、国連の主要な司法機関である国際司法裁判所は2019年2月、英国による同島の占領は「国際法に照らして違法である」との判断を下し、「(同島が含まれる)チャゴス諸島の統治を可能なかぎり速やかに終える必要がある」と勧告した。