ウクライナのゼレンスキー大統領と会談したトランプ米大統領(2月28日ホワイトハウスでで、ウクライナ大統領府のサイトより)

1987年、モスクワでトランプをリクルート

 旧ソ連の諜報機関KGB*1が1987年、モスクワ訪問中のドナルド・トランプ氏(当時40歳)を工作員として採用し、「クラスノフ」(Krasnov)というコードネームを与えていた――。

 2月下旬、当時KGB第6局所属諜報部員だったアルヌール・ムサエフ氏(71、現在ウィーン在住)がフェイスブックに書き込んだ告発文が全世界を駆け巡った。

*1=1991年、ソ連邦の崩壊と同時に①共和国間保安庁(現在のロシア保安庁=FSB)、②対外情報庁(現在のロシア対外情報庁=SRV)、③国境警備・保護委員会に権限が移行されている。ウラジーミル・プーチン大統領は元KGB諜報部員で、その後FSB長官を歴任している。

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A Shadowy Finger Points to Trump as Russian Agent, Roiling Social Media

Examining claim Trump was recruited by KGB in 1987 and given codename 'Krasnov' 

 現職の米大統領が「かつてKGBの工作員だった!」などという話がもし本当だとしたら大変なことになる。

 もちろん、事実なら大統領は弾劾されてしまうだろう。米国社会も大混乱に陥る。

 事実関係の裏が取れないだけに、ニューヨーク・タイムズはじめ米国の主要メディアは報じていない。

 また、トランプ氏もロシア政府も一切コメントしていない。コメントする素振りすら一切見せていない。

 主要メディアが報じないのは、ムサエフ氏の告発を立証する物的証拠がないためだが、一方で自主検閲が働いているのではないかと穿った見方をする人たちもいる。

 トランプ政権による事実上の「言論統制」が厳しくなり、「君主、危うきに近寄らず」といった風潮がメディアに見られるというのだ。

KGB仲間に引き入れられて工作員に

 そうした中で、今や、情報発信の先頭を切るSNS上では「トランプKGB工作員説」が拡散している。

 特に、トランプ大統領の「ガッチャ外交」(Gotcha Diplomacy、編集部注=Gotchaとは「I have got you.」を示すスラングで、「お前をやっつけた!」のような意味で使われる)で米国との亀裂が広がる欧州では、「やはりトランプ氏がロシア寄りなのにはそういった経緯があったのか」といった憶測が増幅されている。

 とりわけウクライナのメディアなどは、これが「事実」であるかのような報道が目立っている(後述)。

 ロンドンの駐英米大使館前には数百人のデモ隊が集結し、反米シュピレヒコールを上げた。

 米国内のメディアで本件を積極的に報じていたのは、反トランプ色の濃い政治サイト「Daily Beast」だ。

(3月7日に掲載されたが、翌8日には全文削除されている)

 同サイトは、ムサエフ氏の告発文を引用しながらこう報じていた。

一、ムサエフ氏は、1987年にモスクワに本部を置くKGB第6局に勤務していた。

 KGB第6局は資本主義国のビジネスマンをリクルートするのが任務だった。

 その年、ソ連は米国出身の40歳のビジネスマン、ドナルド・トランプ氏を「クラスノフ」という偽名で採用した。

二、トランプ氏がスパイ活動に積極的または故意に参加したかについては、ムサエフ氏は明言していないし、トランプ氏のようなケースが別にあったかどうかについても明らかにしていない。

 ムサエフ氏は、トランプ氏の場合は「KGBの仲間に引き入れられた」とだけ述べている。

三、トランプ氏は、KGBや現ロシア大統領のウラジーミル・プーチン氏との密接な関係についての噂をずっと否定してきた。

 ムサエフ氏の主張は根拠がないかもしれないが、トランプ氏とロシアのつながりについての憶測に拍車をかけるものではある。

四、トランプ氏が1987年に不動産開発業者として初めてモスクワを訪れた際、厳しい調査が行われた。

 この旅行はKGBが「疑わしい理由」(工作員にリクルートする理由で)で手配したのではないかという憶測が飛び交っていた。

( Examining claim Trump was recruited by KGB in 1987 and given codename 'Krasnov'