ホワイトハウスで行われたトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談。右はバンス副大統領(2月28日、写真:UPI/アフロ)

主流メディアは「米国にとって屈辱の日」

 大国の大統領が呼びつけた小国の大統領を正副大統領2人で(しかも公衆の面前で)面罵し、追い返すとは・・・。

 言うに事欠いて、ドナルド・トランプ大統領は最後に「素晴らしいテレビのショーだったろ」と吐き捨てるように言った。

 そういえば、トランプ氏もウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領もテレビで名を売った政治家。J・D・バンス米副大統領はベストセラーで有名になったぽっと出の政治家だ。

 ワシントンの某外交官はこうコメントする。

「デモクラシーを守るためには、おっとり刀で地球の果てまでも(カネがびっしり詰まったカバンを下げて)駆け付けていた米国は、今や『世界の警官』どころか、しみったれの『長屋の大家』に成り下がってしまった感すらするね」

 裏を返せば、米国は今や共産主義(ロシアは今やかつてのような共産主義陣営の頭目ではなくなったが)に立ち向かう守護神でも、遊郭吉原でカネを湯水のごとく使った「鳥山検校」でもなくなってしまった。

 理由は、「もう他人のために使うカネはなくなった」「これからは自分のために使う米国第一主義だ」に専念するから。

 それを米国民の半分が認めたようである(少なくとも2年後の中間選挙、4年後の大統領選挙までは)。

 親トランプのメディアは「よくぞ、言ってくれた」とほめそやしているが、リベラル系メディアは「米国にとっての屈辱の日」(Day of American Infamy)*1、「これまでの米大統領の下では起こり得なかった」(Never happened with American presidents before)と嘆いた。

*1=フランクリン・ルーズベルト第32代大統領が1941年12月8日、上下両院合同会議で旧日本軍の真珠湾攻撃を指して言い放った言葉

 ドワイト・アイゼンハワーやロナルド・レーガンといった世界平和を守ることこそ米大統領の責務と信じていた大統領たちは、草葉の陰で哭いていることだろう。

「笑い過ぎて泣き笑い」の絵文字

 今、世界がその一挙手一投足を気にしているトランプ政権の「連邦政府効率化省」(Department of Government Efficiency =DOGE)のトップ、イーロン・マスク氏は、トランプ・ゼレンスキー会談をどうみたか。

 矢継ぎ早に自分が所有するSNSのX(旧ツイッター)に書き込んだ。

「(玄関で出迎えたトランプ氏がゼレンスキー氏を見て「今日はドレスアップしてきましたね」と冗談を言った場面について)ドレスアップだって!」(笑い過ぎて涙が出る絵文字を添付)

「(テレビ、オンラインに流れた会談の模様の)映像を注意深くご覧あれ。すごく重要だからだ」

「ゼレンスキーは米国民の目の前で自爆した」

「我々は何千億ドルをウクライナに貢いで、一体どうなったかに気づく時がきた」

Musk is urging everyone to watch this clip of Trump and Zelensky. Here's why - Hindustan Times

Angry Elon Musk on Ukraine President: Zelensky destroyed himself in ... - The Times of India

 元々、マスク氏とゼレンスキー氏とは知らぬ仲ではない。

 ロシアがウクライナに侵攻した2022年以降、ロシアとの国境に自分が所有するスペースリンクの衛星がとらえたロシア軍の動きをウクライナに提供していたのはマスク氏だ。

 トランプ氏が大統領選に勝利した直後、ゼレンスキー氏はフロリダ州のマール・ア・ラゴの別邸にいたトランプ氏にお祝いの電話を入れた。

 その時、そばにいたマスク氏とも話し、スペースリンク提供のお礼を言っていた。

 マスク氏はウクライナ戦争と無縁な存在ではなかったのだ。

Elon Musk joined Trump-Zelensky call amid concerns for future of Ukraine war | CNN

 つまり、戦争当初はウクライナ支援で巨額の富を得ていた。

 だが、その後、戦況は一進一退、ウクライナ不利と見て、その後対ウクライナ軍事支援は「糠に釘」と判断した。

「税金の無駄使いだ」とするJ・D・バンス氏に共感した。DOGEの総指揮官になった今、その姿勢はますます強くなっているのだ。

「カネの切れ目は縁の切れ目」というべきか。つまり、マスク氏には確固とした政治理念も政治目標もないのか。

 トランプ第1期政権で国家安全保障担当補佐官としてトランプ外交に影響力を持っていた(その後、遠ざけられて今は反トランプの)ジョン・ボルトン元国連大使はそう言っている。