日米首脳会談後の記者会見で撮影した写真を見せるトランプ大統領(2月7日、写真:ZUMA Press/アフロ)

会談をすっぽりと包んだ「シンゾーの幽魂」

「日米黄金時代の構築」を目指して、2月7日、石破茂首相はワシントンでドナルド・トランプ米大統領と初の首脳会談を行った。

 出迎えたトランプ氏は開口一番「We love Japan」。

 最近、記者団とのやり取りでも同じ言葉を発していた(真意は不明だが、トランプ氏が今のところ日本に好意的なことだけは確かなようだ)。

 首相周辺には、「トランプ氏に何を言われるか予測できない」と、この時期での訪米を疑問視する向きが多かったようだ。

 こうした空気を反映してか、ニューヨーク・タイムズは2月6日の予定稿では、「日米首脳会談は石破氏にとっては賭けだ」と書いていた。

Japan’s Prime Minister Will Seek to Preserve Status Quo at Summit With Trump - The New York Times

 トランプ氏にとっては、今は緊急課題をめぐる内政外交ディール(取引)で頭がいっぱい。

 それに貿易不均衡是正では、最も身近なカナダにまで25%の関税をかけると脅している真っただ中。

 貿易赤字685億ドルの日本にどう出るか、いつ言い出すかは、世界が注目している。

 だが蓋を開けてみると、トランプ氏の対応は米国人も驚くような「ジャパニーズ・スタイル」だった。

 本来なら「フォト・オポチュニティ」(写真撮影)の数分しかメディアに公開しない。その意味では10分以上の公開は異例だった。

 石破氏が「大統領閣下」と呼びかけ(日本側通訳はただ「President Trump」と訳していたが)、「故安倍晋三首相とトランプ氏が今日の強化な日米同盟の礎を築き上げた」と持ち上げれば、トランプ氏は「シンゾーは素晴らしい人だった」と感慨深げに応じていた。

 石破、トランプ両氏の初顔合わせの場を「シンゾーの幽魂」がすっぽりと包んでいた。

 その瞬間は、トランプ氏にとっては「忙中のひと時」(米シンクタンクの上級研究員)だったのかもしれない。

 むろん、石破氏の爺殺し的な発言(孫正義氏の対米投資、暗殺未遂直後のトランプ氏の拳を上げた写真、神様、MAGA礼賛等々)がトランプ氏を和ませたのは言うまでもない。

(石破氏がこれほど饒舌だったのに驚くと同時に、トランプ氏のおだてに弱いウイークポイントを裏方が完全に研究していたのには舌を巻いた)

 その結果、この場ではトランプ氏は「他国と同じように、日本とも貿易不均衡を対等の立場に是正するよう対応したい」と述べただけだった。