メキシコ国境で発見された違法トンネル(1月10日、写真:ロイター/アフロ)

メキシコ国境に新たに1500人軍隊配置

 ドナルド・トランプ米大統領は1月20日の就任直後から「米史上最大の強制送還作戦」を柱にした不法移民対策に着手した。

 メキシコ国境に対し国家非常事態を宣言し、常駐の2299人に加え、新たに1500人の軍隊を国境地帯に配置した。

 1月20日段階で、ギャング組織の構成員16人、犯罪者373人などを逮捕、不法移民1000人を軍用機でグアテマラなどに国外送還した*1

*1=法的には1798年制定の「敵性外国人法」を適用し、罪を犯した不法移民を強制退去させる計画。米国の市民や法執行機関当局者を殺害した不法移民に対し、死刑を求めることも司法省に指示している。

 トランプ氏は、「バイデン政権は外国(ウクライナ)の国境を守るために際限なく資金を投じながら、米国の国境とさらに重要な自国民を守ろうとしなかった」とバイデン政権の生ぬるい不法移民対策を激しく批判した。

 トランプ氏はまた、

亡命や難民を申請する移民を審査終了まで米国内に滞在させる政策を廃止し、メキシコ側にとどめること

②政権1期目で進め、バイデン政権が事実上ストップしていた「国境の壁」建設を再開すること

西部コロラド州やカリフォルニア州などで暗躍するギャング組織や麻薬カルテルなどを「外国テロ組織」に指定し、撲滅すること

米国で生まれた子供へ自動的に米国籍を与える「出生地主義」(不法移民や一時滞在者の子供に「米国民」としての地位を認める憲法上の規定)を見直すこと

 などを大統領令で発令した。

 移民問題ではリベラル派の主張を踏まえて、抜本的な見直しには消極的だったバイデン政権とは対照的に「有言実行」路線を打ち出したわけだが、リベラル派からは早くも批判が出ている。

 現行法内での政策遂行は問題はないのだが、大統領特権による大統領令をいざ立法化するとなると、司法府と立法府の壁が立ちはだかる。

 その好例が、「出生地主義」(Jus  Soli)の撤廃だ。

 日本の「血統主義」(Jus  Sanguinis)2とは異なり、欧米や南米諸国では、その国の市民権を持とうと持つまいと領内で生まれた子供は自動的に市民権を取得できる。二重国籍を認めないない相手国であれば、子供が18歳になった時に、どちらかの国の市民権を選択できる。

*2=日本は天皇制や戸籍制度が踏襲される土台である「血統神話」が強いことで血統の重視という伝統的な社会規範が法律に反映されている。

 トランプ氏は、大統領選キャンペーン中から不法移民の子供に「米国民」としての地位を認めている現行制度の撤廃を主張してきた。

 例えば、現行制度では大谷選手の妻、真美子さんが米国内で出産すれば、生まれた子供は自動的に米国籍を取得できる。3週間以内に領事館に申請すれば日本国籍も取得できる。

 法的根拠は、憲法修正第14条に以下の文言がある。

「アメリカ合衆国の市民権は出生、または帰化によって取得される。アメリカ合衆国内で生まれ、また帰化、かつアメリカ合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民であり、かつその居住する州の市民である」

 この憲法修正は南北戦争終結後の1868年にエイブラハム・リンカーン第16代大統領当時に立法化された。狙いは、黒人奴隷を米国市民と正式に認めるためだった。

 その後、諸外国からの移民が激増する中で1800年代後半、合法的移民だった中国人夫妻の米国生まれの息子、ウォン・キム・アーク氏(21)が訪中後、米国に再入国した事案をめぐって法律論争となった。中国人排斥気運が最高潮の時期だった。

 米最高裁は1898年、憲法修正14条を適用して、この息子の市民権を認める判決を下した。

 当時「歴史的な判決」として第14条の法的解釈の基盤として定着し、米議会はその後、米先住民の市民権を認める法案を採択するなど、「出生地主義」は米国民の社会規範となっていた。