グリーン車が導入されたJR中央線(写真:©Taidgh Barron/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)

 2025年3月のダイヤ改正により、中央線・青梅線にグリーン車が導入された。東海道本線・横須賀線、東北本線・高崎線、常磐線、総武線といった東京圏を走る列車にグリーン車が導入されて久しいが、利用者の多い中央線には導入されていなかった。なぜ、今になってJR東日本は中央線・青梅線にグリーン車を導入したのか? フリーランスライターの小川裕夫氏が、その経緯と今後の展望について考察する。(JBpress編集部)

1965年から始まった国鉄の「通勤五方面作戦」

 2025年3月のダイヤ改正で、中央線と青梅線を走る列車にグリーン車が導入された。JR東日本は2020年度内に中央線・青梅線にグリーン車を導入することを目指していたが、半導体不足などを理由に延期していた。計画から約4年遅れてグリーン車がようやく登場したことになるが、なぜJR東日本は中央線・青梅線にグリーン車を導入したのか?

 東京圏では、東海道本線、横須賀線・総武快速線、東北本線・高崎線、常磐線などにグリーン車がすでに連結されている。それを踏まえれば、東京の大動脈でもある中央線にもグリーン車の導入を求める声があって当然だが、要望が多く寄せられたからといってグリーン車を簡単に導入できない理由もある。

 まず、中央線・青梅線は東京圏のJR路線の中でも混雑率が高い路線として知られる。中央線には2両のグリーン車が組み込まれるが、2両の座席定員は180人。グリーン車は指定席ではないので、通路に立ったまま乗車することも可能だが、それでも2両で200人程度までが現実的だろう。

 一方、普通車10両の定員は1582人で、1両あたり158人。比べるまでもなく、普通車の方が多くの利用者を乗せることができる。車両側壁に沿って座席を設置するロングシートのため、定員の2倍以上が乗っていることも珍しくない。

 中央線は戦前期から沿線の宅地化が進み、通勤・通学需要が高い路線だった。戦後の昭和30年代はさらに郊外に住宅地が拡大したため混雑率が高く、利用客から不評を買っていた。激しい混雑を解消することは旧国鉄に課された責務となり、1965年から「通勤五方面作戦」と称した輸送力の強化が図られている。

 五方面とは、「東海道本線・横須賀線」、「中央本線」、「東北本線・高崎線」、「常磐線」、「総武本線」の5つを指す。これらの路線は東京と神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬・山梨の主要都市を結ぶ路線ゆえに東京への通勤・通学利用者も多かった。

 国鉄は各線の輸送力を強化する手段として、複々線化を進めていった。これが実現すれば、各駅停車タイプの列車と主要駅のみに停車する快速タイプの列車を同時に運行することが可能になるからだ。