奇襲攻撃計画チャットになぜ著名ジャーナリストは「招待」されたのか
トランプ、マスク抜きではしゃいだ閣僚ら18人のグループチャットのツケ
2025.3.29(土)
高濱 賛
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すっぱ抜いたのは中東問題のレジェンド記者
トランプ米政権の国家安全保障担当補佐官が主宰、国務、国防、財務各長官ら18人が参加していた通信アプリ「Signal」*1によるグループチャットの内容が3月24日、暴露された。
(重大決断はドナルド・トランプ大統領とイーロン・マスク氏がすべて決めてきたにもかかわらず、トランプ政権初の奇襲攻撃計画を「ご主人様抜き」で論じ合うこと自体、異例ではあった)
内容は、2時間後に迫った奇襲攻撃の計画を巡る素人たちの井戸端会議のようなやりとりだった。
「重大な軍事行動に関与し合えるナルシシズム(Narcissism of connectivity)」(スペクテーター誌)に浸る、成り立ての閣僚のはしゃぐ様子が目に浮かぶ。
今や遅しと出撃を待つ米兵たちの生命の安全など、全く考慮しない閣僚たち。
オンラインゲーム感覚で、計画にあれこれコメントを投稿していたのである。
(Signal and the narcissism of connectivity - The Spectator World)
(The Trump Administration Accidentally Texted Me Its War Plans - The Atlantic)
だが、裏を返せば、これは米国という国家にとっては由々しき事態だった。
トランプ政権の国家安全保障への認識、情報管理、ガバナンスの杜撰(ずさん)さが早くも露呈したと言っていい。
このやりとりが敵国や潜在的敵国に漏れていたらどうなっていたか。
*1=Signal(シグナル)は2018年に創設されたオープンソースの暗号メッセージサービスで、利用者は月平均4000万人、2020年12月時点でダウンロード数は1億5000万回。トランプ第1期政権以降、バイデン政権でも中国やイランによるハッキング攻撃を防ぐため、グループチャットなどで使われてきた。
そのやりとりを暴露したのは「ジ・アトランティック」誌の編集主幹(Editor-in-Chief)のジェフリー・ゴールドバーグ氏(60)。
といっても参加者の中にディープスロートがいたわけではなく、黙っていても転がり込んだタナボタ式特ダネだった。
同氏は、2013年まで米・イスラエル二重国籍を持っていたベテラン国際ジャーナリストで、2016年から主筆を務めてきた。
リベラル派でユダヤ系だが現イスラエル政権には厳しい立場をとっている。中東・アフリカ報道のレジェンド的存在だ。
同氏によれば、3月13日、マイケル・ウォルツ国家安全保障担当補佐官(51)からグループチャットへの参加要請が入り、承諾すると、その後、自動的にチャットの内容が流れてきたという。
このチャットは、米軍が3月15日、イエメンの親イラン武装組織フーシ派に対して行う空爆作戦計画を巡る内容だった。
その時点で、もしフーシ派やイランが無防備なSignalからの漏洩により、同計画をキャッチしていれば、攻撃態勢に入っていた米軍も航空機や艦艇に対する先制攻撃を仕掛ける可能性もあった。
米軍将兵が多数死傷する事態にもなり得た。
ゴールドバーグ氏はことの重大さを認識し、計画が実行されてから9日後の3月24日、グループチャットのやりとりの「全容」を「ジ・アトランティック」に執筆した。
むろん、国家機密保持の観点から具体的な軍事情報は伏せた記事だった。
グループチャットで攻撃計画について滔々としゃべりまくっていたピート・ヘグセス国防長官(44、ハワイに滞在中)は、この記事は「でたらめだ。国家機密情報など話していない」と全面否定。
ゴールドバーグ氏は、翌25日の記事で「これが証拠だ」とばかりに、ヘグセス氏がグループチャットで並べ立てていた攻撃に使用する兵器、攻撃目標、タイミングなどを公表した。
(ただし、米軍が標的にしたフーシ派指導者や指導者の名前などは伏せている)