悩ましいプーチン大統領。3月21日撮影、写真:代表撮影/ロイター/アフロ

プロローグ/油価はロシアの生命線

 戦争報道は華麗なる虚飾で満ちています。ウクライナ戦争もその例外ではありません。

 近年まれにみる虚飾報道の一つに、今年3月10日前後に流れ出した「ロシア軍特殊部隊が天然ガスパイプライン(PL)の中を通り、ウクライナ軍の背後に移動して攻撃した」というロシア側報道です。

 ロシア軍特殊部隊がPL内部に入っていく、まことしやかな映像も流れました。

 もしこの映像が本物なら「空の神兵パレンバン」ならぬ「地下の神兵ロシア軍」となりますが、筆者はこの報道に接するや否や、これは偽旗作戦と判断した次第です。  

 理由は簡単。原油PLも天然ガスPLも輸送用PLは全線埋設されているので、出口がないのです。

 いくら大径鋼管を接続した幹線PLといえども、現実の世界では、その中を完全武装した大柄な兵士が屈んで前進することは不可能。

 ましてや、数百人の兵士が数日間PL内部で待機して攻撃。これは劇画やハリウッド映画の話です。敵がPL内部に水や毒ガスを入れれば、部隊は全滅します。

 大口径の幹線PLは通常、口径の2倍の穴を掘り、大径鋼管を現場で溶接して接続、順次穴の中に移動して穴を埋めていきます。この作業を英語では「back-filling」と言います。

 筆者は幹線PLの建設現場で働いていたので、大径鋼管と幹線PL建設作業には熟知しているつもりです。

 この報道直後、筆者のところには様々な方面から「ロシア軍特殊部隊がPL内部を進み、ウクライナ軍の背後にまわり、攻撃したとの報道は本当か?」との照会が入りました。

 誰に訊かれても筆者の返事は同じで、「宣伝用偽情報です」と回答した次第です。

 筆者は、ソ連邦ロシア共和国西シベリアからソ連邦ウクライナ共和国~チェコスロバキア経由西独向け天然ガス幹線PL用大径鋼管の輸出業務に従事してきました。

 本稿では、実際にこのPL建設ビジネスに従事した者の立場から、なぜロシア軍の偽情報と判断したのか、筆者の見解を披露させていただきたいと思います(後述)。

 ロシア軍が2022年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから、この原稿を書いている3月21日でウクライナ戦争は1122日目に入りました。

 短期決戦・勝利のはずが長期戦となり、ウクライナ戦争はV.プーチン大統領にとり誤算の連続となりました。

 ちなみに、筆者はウクライナ戦争におけるプーチン大統領最大の誤算は、ウクライナ侵攻開始後、油価(露ウラル原油)が下落したことだと考えております。

 世界の原油需給は均衡しており、油価は既に下落傾向に入っています。

 油価(露ウラル原油)はロシアの生命線であり、油価に依存するロシア経済は「油上の楼閣」。その油価が下落しているのです。

 戦争により、ロシア経済は戦争経済に突入。油価下落により、油価に依存するロシア経済は弱体化。財政は悪化して、国家予算案は大幅赤字を計上。頼みの綱の国民福祉基金流動性資産残高は枯渇寸前。

 油価下落傾向が続いているので、ロシア経済弱体化(=戦費枯渇)の実態も早晩顕在化・表面化必至にて、油価下落はプーチン大統領に対する最大の停戦圧力になります。

 油価が下がれば露財政はさらに悪化して戦費枯渇、ロシアの継戦能力は限りなくゼロに近づくでしょう。

 事実、ロシア軍の戦費は枯渇状態になりつつあります。

 上記より、今年中にウクライナ戦争停戦・終戦の姿が透けて見えてくるものと筆者は予測しております。