第6部 地下の神兵
戦争は偽情報の宝庫です。典型例はロシア軍特殊部隊が天然ガスPLを移動してハリコフ州スジャに展開するウクライナ軍の背後に進出したとの「地下の神兵」報道ですが、これは偽情報と筆者は判断します。
上述通り、この報道直後、筆者のところには色々な方面から「露軍特殊部隊がPL内部を進み、ウクライナ軍の背後にまわり、攻撃したとの報道は本当か?」との照会が入りましたが、誰に訊かれても筆者の返事は同じで、「偽旗作戦」と回答。PL地図をみれば、理由は明白です。
本稿では最初に、ソ連邦ロシア共和国西シベリアからソ連邦白ロシア共和国(現ベラルーシ)~ポーランド経由ドイツ(東独)向け天然ガス幹線PL(北側ルート)と、ソ連邦ウクライナ共和国~チェコスロバキア経由ドイツ(西独)向け天然ガスPL地図を概観します。
幹線PLはドイツまで全線埋設されており、PLが地上に顔を出すのは、途中に何カ所も設置されているCS(コンプレッサーステーション)のみです。

スジャ計量基地経由ウクライナ側に天然ガスを輸送する幹線PLは3本ありますが、3本とも並行して建設・埋設されており、スジャを迂回するPLは存在しません。
PL用大径鋼管の最大口径は56インチ(外径1420ミリ)ですが、肉厚12.7ミリゆえ、内径は1.4メートル以下になります。
幹線PLはスジャ計量・送圧基地で地上に顔を出しますが、圧縮機に接続されています。入口はロシア軍制圧地域で土を掘り起こしてPLを切断すれば入れますが、出口はありません。
スジャ計量基地はウクライナ軍に制圧されているので、ここにも出口はありません。とすれば、完全武装した露軍特殊部隊はどこから地上に出たのでしょうか?
もしウクライナ軍を包囲している露軍制圧地域で掘り起こしてPL切断したとすれば、そもそもPL内部を移動する意味はありませんし、そもそも包囲網自体存在しなかったと筆者は考えます。
すなわち、「地下の神兵」映像はロシア国民に対し戦意高揚を鼓舞する偽情報であると筆者は判断します。