第4部 ロシア国民福祉基金資産残高推移概観
ロシアには「国民福祉基金」が存在します。これは一種の石油基金であり、もともとは「ロシア連邦安定化基金」として2004年1月の法令に基づき、同年設立されました。
この基金は発足時2004年5月の時点では約60億ドルでしたが、油価上昇に伴い2008年1月には1568億ドルまで上昇。
この安定化基金は2008年2月、「予備基金」と「国民福祉基金」(別名、「次世代基金」)に分割されました。
「予備基金」は赤字予算補填用、「国民福祉基金」(「次世代基金」)は年金補填用や優良プロジェクト等への融資・投資目的として発足。
分割時「予備基金」は約1200億ドル強を、残りを「国民福祉基金」が継承。その後、赤字予算補填用「予備基金」の資金は枯渇して、2018年1月に「国民福祉基金」に吸収合併されてしまいました。
「国民福祉基金」は結果として国家予算案が赤字になった場合に補填可能でしたが、露政府は法律を改定して戦費転用可能としました。
露財務省は3月6日、今年3月1日現在の露国民福祉基金資産残高を発表。ただし、露財務省HPにはアクセス不可能なので、3月6日付け露タス通信記事より数字をまとめました。
なお、この資産残高は預貯金残高ではなくあくまでも資産残高にて、過去に投融資した資産等も含みます。
2025年3月1日現在の露国民福祉基金資産残高: 11.88兆ルーブル(GDP比5.5%)、そのうち流動性資産3.394兆ルーブル(同1.6%)
(参考:現在1ルーブル約1.6円)
上記の通り、国家福祉基金の戦費転用を可能にした結果、流動性資産残高が急減しています。
下記グラフをご覧ください。ウクライナ戦争前の国民福祉基金に占める流動性資産残高は約6割、開戦後約5割となり、2024年は4割台に減少。今年に入ると3割台となり、3月1日現在では28.6%にまで急減。
このままウクライナ戦争が続けば、今年中に露国民福祉基金の流動性資産は枯渇することが予見されます。これが、露プーチン大統領が今年中に停戦実現を望む背景と筆者は考えます。
