(英エコノミスト誌 2023年7月1日号)
「お宝」の発見が怪しげな領有権主張を補強することを期待している。
南シナ海の深海の底、陽の光も届かないところに財宝が眠っている。
中国の調査隊は昨年、深さ約1500メートルの海底で朽ちかけた難破船を2隻発見した。
一方には磁器の碗や壺が何千個も積まれており、釉薬(ゆうやく)の明るい青や白が泥の下に見え隠れしている。
そこから20キロ離れたもう1隻の船には材木が積んである。
どちらの船からも、明の時代(1368~1644年)の国際貿易の一端が垣間見える。
当時は、中国南部の政府直営工場で焼かれた磁器が遠くは欧州の商人に出荷されていた。材木は恐らく、反対方向に運ばれていたのだろう。
ひょっとしたら中国の造船所に向かっていたのかもしれない。しかし、これらの発見に興味を示しているのは学者だけではない。
領有権の主張を裏付け?
中国政府の高官らは、難破船は「中国人の祖先が南シナ海を開発し、利用し、行き来していた歴史的事実を裏付けている」と話している。
地政学をめぐる発言のようには聞こえないかもしれないが、実はこうした主張は、この海域をほぼ丸ごと支配下に置こうとする中国の取り組みのソフトな側面にほかならない。
地中海より広い南シナ海は今でも重要な貿易ルートであり、貴重な水産資源とエネルギー資源の宝庫だ。
7カ国がその一部について領有権を主張している。だが、中国が主張する水域は他国のそれよりも圧倒的に広い。
中国の地図には、本土の海岸から700カイリ(1296キロに相当)以上離れたところに「九段線」という点線が描かれている。
中国政府はこの線で囲まれた広大な海域について主権を主張している(地図参照)。