2024年9月2~3日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、国際刑事裁判所(ICC)加盟国のモンゴルを訪問した。
ICCが2023年3月、ウクライナの占領地からの子供の連れ去りに関与した容疑でプーチン氏に逮捕状を出して以降、プーチン氏がICC加盟国を訪れたのは初めてである。
ICCの加盟国で逮捕協力への義務がありながら、プーチン氏を受け入れたモンゴルにも重大な責任がある。
ICCは戦争犯罪や集団殺害などを犯した個人を訴追、処罰する国際機関だが、独自の法執行機関を持たない。
ICCは、加盟国が協力義務を履行しなかったと判断すれば、締約国会議や国連安全保障理事会(以下、安保理)に問題を付託することができる。
また、2022年2月27日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアによる攻撃を巡り国際司法裁判所(IJC)に提訴した。
IJCは同年3月16日、ウクライナの要請に基づき、暫定措置命令を発出した。
暫定措置命令には、ロシアは、本年2月24日にウクライナの領域内で開始した軍事作戦を直ちに停止し、また、軍隊や非正規部隊等が軍事作戦をさらに進める行動をしないことを確保しなければならないといった措置が含まれている(出典:外務省HP)。
暫定がついているのはロシアが裁判に出席していないからであると筆者は推測する。
IJCの判決には法的拘束力があるが、裁判所は執行する権限を持っていない。したがって、一方の国が判決に従わない場合には、安保理は判決に従うように「勧告」することができる。
しかし、ロシアが拒否権を保有する常任理事国である限り、ロシアを非難する「勧告」は決して発出されないであろう。
とするならば、大国であれば法を守らなくてもよいことになる。まことに不条理な話である。
上記2つの事例において明らかなように、法の支配において重要な役割を果たしているのが安保理である。ところが、安保理は、常任理事国の拒否権行使により機能不全に陥っている。
そのため、現在、世界は無政府状態にある。つまり国家の国際法違反を取り締まる権威と権限をもった組織が存在しないということである。
世界の国々は、第2次世界大戦後の教訓に基づき、戦争を防止し、紛争を平和的に解決しようとして、国連による集団安全保障制度を導入し、その中核である安保理に大きな責任と権限を付与した。
しかし、安保理は常任理事国の拒否権行使により機能不全に陥っている。今、国際の平和及び安全を維持するために創設された国連の存在意義が問われている。
このままでは、国連の存在意義は消失するであろう。すでに消滅してしまった感さえある。
そこで筆者は、拒否権という関門に阻まれてなかなか結果の出ない国連安保理改革に取り組むのでなく、「平和のための結集決議」に基づく緊急特別会期(Emergency Special Session:ESS)の総会(以下、緊急特別総会という)(注1)をもっと活用すべきであると考える。
結論を言えば次の3つである。
1つ目は、緊急特別総会でロシアの常任理事国の資格停止を決議。
2つ目は、緊急特別総会の決議でロシアの戦争犯罪を訴追する特別法廷を設立。
3つ目は、緊急特別総会の決議とマンデート(任務付与)に基づき「平和執行部隊」を創設・派遣。
3つの方法の詳細は後述する。
以下、初めに国連の集団安全保障制度について述べ、次に「平和のための結集決議」について述べ、最後に国連を再生する方法について述べる。
(注1)国連の総会には通常会期の総会(通常総会)、特別会期の総会(特別総会)、緊急特別会期の総会(緊急特別総会)の3つの種類がある。