1.国連の集団安全保障制度

(1)創設の経緯

 国連は、第2次世界大戦を防ぐことができなかった国際連盟の反省を踏まえ、米国、英国、ソ連、中華民国などの連合国(the united nations)が中心となって1945年に設立された。

 国際連盟の反省とは、①国際連盟の設立を主導した米国が加盟しなかった、②国際連盟が秩序破壊者に対する軍事制裁規定を持たなかった、③国際連盟総会と理事会の意思決定が全会一致だった、である。

 そして、国連軍(United Nations Forces)による集団安全保障制度を導入し、戦勝5大国(米・英・ソ・仏・中)の安保理における意思決定を重視し、安全保障理事会に大きな責任と権限を付与し、常任理事国に拒否権を付与した。

(2)国連の集団安全保障制度

●国連は、国際の平和および安全を維持するために、平和に対する脅威の防止および除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞(おそれ)のある国際的の紛争または事態の調整または解決を平和的手段によってかつ正義および国際法の原則に従って実現することを目的としている(第1条)。

●各加盟国は、この目的を達成するために、武力による威嚇または武力の行使の禁止(第2条の4)の義務、国連がこの憲章に従ってとるいかなる行動に対するあらゆる援助の提供(第2条の5)の義務、および内政不干渉(第2条の7)の義務を負っている。

●また、国連の迅速かつ有効な行動を確保するために、国際の平和および安全の維持に関する主要な責任を安保理に負わせるものとし、かつ、安保理がこの責任に基く義務を果すに当って加盟国に代って行動する(第24条の1)。

(3)国連の各種活動

ア.朝鮮国連軍

 1950年6月25日、朝鮮戦争が勃発すると、6月25日に安保理(ソ連欠席)は、安保理決議82を採択し、北朝鮮を侵略者と認定、その行動を非難し、軍事行動の停止と軍の北緯38線までの撤退を求めた。

 6月27日に安保理決議83を採択し、韓国を防衛するため、必要な援助を韓国に与えるよう加盟国に勧告した。

 7月7日に安保理は安保理決議84を採択し、米国の指揮の下、統一軍を編成し、国連旗の使用を承認した。

 朝鮮国連軍の実態は米軍主導のいわゆる多国籍軍と呼ぶべきもので、国連憲章第7章が本来予定した国連軍とは異質のものであった。

 こうした理由から、特殊な国連軍または国連旗の使用を許された多国籍軍とも呼ばれる。

イ.国連平和維持活動(PKO)

 国連PKO(United Nations Peacekeeping Operations)は、戦後の東西対立の中で、国連憲章が予定した安全保障理事会による国際の平和および安全の維持(例:第7章に定める集団安全保障制度)が十全に機能しなかったため、国連が世界各地の紛争地域の平和の維持を図る手段として実際の慣行を通じて行われてきた。

 第2代国連事務総長ダグ・ハマーショルド氏が「憲章6章半」の措置と呼んだとおり、国連憲章上明文の規定はない。

 国連PKOを支えているのは,国連加盟国が任意で派遣する要員と、義務として拠出するPKO分担金である。

ウ.冷戦終結後の多機能型PKO

 冷戦構造の崩壊が決定的になると、国際の平和および安全の維持に関する国連の役割に対する加盟国からの期待が高まり、多数のPKOが設立されるようになった。

 また、国際の平和および安全を脅かす紛争の態様が国家間の紛争から国内における紛争へと変容した。

 これに伴いPKOの任務も多様化し、「伝統的」なPKOの任務である停戦、軍の撤退等の監視に加え、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(Disarmament, Demobilization, Reintegration:DDR)や治安部門改革(Security Sector Reform:SSR)、選挙、人権、法の支配等の分野での支援、政治プロセスの促進、紛争下の文民の保護など多くの分野での活動が国連PKOの任務に加えられるようになるとともに、その実施主体として、文民部門の重要性が認識されるようになった。

エ.国連安保理決議に基づく多国籍軍・有志連合

 冷戦後、大規模な迫害・大量殺害を伴う地域紛争や「破綻国家」から大量の難民・避難民が生じ、人道上の問題となるとともに、周辺地域の不安定化を招く事態が生じている。

 このような事態に際し、「国際の平和と安全の維持に第一の責任を有する」安保理が、決議によって加盟国に必要な権限を授権し、加盟国が多国籍軍を編成・派遣し、平和・秩序の回復・維持、人道救援活動の支援などに従事する事例が見られるようになった。

 この多国籍軍の活動は、国際連合憲章が予定した「国連軍」(憲章上の国連軍) とも、PKOと称される「平和維持活動」とも異なる性格を持っている。

 多国籍軍(Multinational force)は本来複数の国の軍隊で構成される国際軍の意味である。ただし、国連との係りで使用される場合は、国連から権限を委任された国際軍という意味を持つ。

 特に、湾岸戦争の際、安保理決議678に呼応し、イラク軍と戦った米軍主導の国際軍に対して使用されてからこのような意味を有するようになった。

 一方、有志連合(Coalition of the willing)は、本来国際的な取組みを意味するものである。

 例えば大量破壊兵器・ミサイルおよびそれらの関連物資の拡散に対する安全保障構想(Proliferation Security Initiative:PSI)への取組みなども有志連合と呼ばれる。

 ただし、国連との係りで使用される場合は、国連から権限を委任されていないが、安保理決議で自衛権の行使が容認されている国際軍というニュアンスで使用されている。

オ.緊急特別総会の決議により派遣された第1次国連緊急軍(UNEF1)

 国連は、安保理決議だけでなく、緊急特別総会の決議により第1次国連緊急軍(First United Nations Emergency Force:UNEF1)を派遣したことがある。第1次国連緊急軍(UNEF1)の詳細は次項で述べる。