3.国連を再生する方法

 既述したが、筆者は拒否権という関門に阻まれてなかなか結果の出ない国連安保理改革に取り組むのでなく、『平和のための結集決議』に基づく緊急特別総会の決議を大いに活用すべきだであると考える。

(1)国連を再生する3つの方法

●1つ目は、緊急特別総会でロシアの常任理事国の資格停止を決議する。

 現在、第11回緊急特別会期が開催中である。これまでに緊急特別総会において6つの決議が採択されている。緊急特別総会で審議され採択された決議は国際社会の総意としての意義を持つ。

 決議には、法的拘束力はないとはいえプーチン大統領のみならずロシア国民にも相当のプレッシャーを与えるであろう。

 一例を挙げれば、2022年4月7日、緊急特別総会で、国連人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止する決議を採択した。

 賛成は日米欧など93か国、反対はロシアや中国、北朝鮮など24か国で、賛成が採択に必要な投票の3分の2を超えた。投票数には含まれない棄権はインドやブラジルなど58か国だった。

 国連人権理事会の理事国の資格が停止されるのは、2011年に反政府勢力を武力で弾圧していたカダフィ政権下のリビアが停止されて以来、2例目である。

 ロシアの任期は2023年までだったが、採決結果を予想し、ロシアは採決日前に国際連合人権理事会から脱退したと表明した。

 緊急特別総会でロシアの常任理事国の資格停止を決議すれば、ロシアは自ら常任理事国を辞退するかもしれない。少なくとも、ロシア国民の反プーチン運動を後押しするであろう。

●2つ目は、緊急特別総会の決議によりロシアの戦争犯罪を訴追する特別法廷を設立する。

 過去に設立された特別法廷には、ルワンダ国際刑事裁判所、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所の他にもシエラレオネ残余特別裁判所、レバノン特別法廷がある。

 多くの特別法廷は安保理により設立されているが、筆者は緊急特別総会の決議による特別法廷の設立も可能であると考える。

 なぜなら、『平和のための結集決議』では、既述したが「安保理が、常任理事国間の一致がないために国際の平和と安全の維持に関する主要な責任を遂行できない場合には、総会は、集団的措置(平和の破壊または侵略行為の場合には、必要であれば軍隊の使用を含む)について加盟国に適切な勧告を行うことを目的として、その問題を直ちに審議しなければならない」と規定している。

 すなわち、安保理が機能しないときは、緊急特別総会がその機能を代行せよとしているのである。

 今回は、ロシアの戦争犯罪を訴追する特別法廷を総会の補助機関として設立する。

 そして、現在、ICCが行っているロシアの戦争犯罪の調査と訴追、およびウクライナで行われている戦争犯罪裁判を特別法廷に移管する。

 その方が、ロシアの戦争犯罪を国際社会に広く訴えることができる。

●3つ目は、緊急特別総会の決議とマンデート(任務付与)に基づく「平和執行部隊」を創設し、ウクライナに派遣する。

 既述したが、国連は安保理決議だけでなく、緊急特別総会の決議により国連軍を派遣したことがある。

 また、前述したように、『平和のための結集決議』は、安保理が機能しないときは、緊急特別総会がその機能(軍隊の使用を含む)を代行せよとしているのである。

 第6代事務総長のブトロス・ガリ氏が1992年に、「平和への課題」と題する報告書の中で平和執行部隊(peace-enforcement units)の創設を提唱した。

 停戦協定が締結されていない紛争地帯に、敵対行為の停止と敵対軍の隔離を目的に、強制力を有する重装備の平和執行部隊を派遣し、平和を創造するという構想である。

 平和執行部隊は、憲章第7章下のPKOとも呼ばれる。筆者は、ドンバス地域への派遣を想定している。

 1993年にソマリアに派遣された平和執行部隊は失敗したとされるが、この時は民族紛争の最中に派遣され、敵も味方も分からない状況だった。

 ウクライナの前線は正規軍同士が対峙しているので、敵対行為の停止と敵対軍の隔離は、ソマリアの時より容易であると考えられる。

 万一、ロシアが平和執行部隊の派遣に同意していない場合に、平和執行部隊に兵員を派遣する国には、平和と正義を守るという強い信念と覚悟が必要となるであろう。

(2)筆者コメント

 上記の3つの方法は、いずれも国連憲章に規定されておらず実現不可能に見える。

 しかし、国連PKOや第1次国連緊急軍も、国連憲章に明文上の規定は存在しない。

「必要は発明の母」というが、必要に迫られた先人が知恵を絞り生み出した成果である。

 上記3つの方法についても、きっとうまい理屈が見つかるものと筆者は信じている。