(4)拒否権制度と拒否権濫用防止の3つの方法

 本項は、国立国会図書館外交防衛課苅込照彰氏著『国連安全保障理事会の拒否権』を参考にしている。

 国連憲章の下に、国際の平和と安全に主要な責任を持つのが安保理である。安保理は、常任理事国5か国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)と、通常総会が2年の任期で選ぶ非常任理事国10か国の15か国で構成される。

 各理事国は1票の投票権を持つ。

 手続き事項に関する決定は15理事国のうち少なくとも9理事国の賛成投票によって行われる。実質事項に関する決定には、5常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票が必要である。

 常任理事国の反対投票は「拒否権」と呼ばれ、その行使は決議を「拒否」する力を持ち、決議は否決される。

 さて、拒否権制度は、集団的安全保障制度を実効的ならしめるために導入されたが、冷戦開始とともに拒否権は濫発され、むしろ常任理事国の国益のために拒否権を行使するという弊害が目立つようになり、当初想定された集団的安全保障制度が十分には機能しなかった。

 そのため、拒否権の濫用防止のため、次の3つの方法が編み出されてきた。

●1つ目は、常任理事国の棄権や欠席の場合に拒否権行使の効果を認めないというものである。

 国連憲章第27条は、紛争当事国の棄権(義務的棄権)について規定しているが、常任理事国の自発的棄権については明記していない。

 しかし、早くも1947年には、常任理事国の自発的棄権は拒否権の行使と同一視されないという慣行が確立されたものとして認められていた。

 また、常任理事国が討議に欠席したときの取扱いについては、1950年の朝鮮戦争の際にソ連が欠席したときに問題となった。

 しかし、現在では安保理の先例や実行上、常任理事国が欠席した場合も拒否権の行使とならないことが認められている

●2つ目は、二重拒否権の弊害を防ぐため、安全保障理事会仮手続規則第 30を活用することである。

 この規則は、議長の裁定を覆すには9理事国以上の賛成を必要とする(拒否権は適用されない)という規定であり、もともと議事進行に関して緊急動議が提起された場合の議長裁定の適否を決定するための手続を定めたものであった。

 しかし、すでに初期の段階から議長が手続事項であるか実質事項であるかについて裁定を下す慣行が生じていたことを踏まえ、この規則を援用することによって、二重拒否権(注2)を防止しようとするものである。

●3つ目が、1950年に国連総会が採択した「平和のための結集」決議(決議 377A)である。

 この決議は、①安保理が拒否権のために行動を妨げられたときは、総会に審議の場を移し、②総会の3分の2の多数で集団的措置を勧告できるなど、安保理が国際の平和および安全の維持のために果たすべき機能を総会が代行しうるようにするものである。

「平和のための結集」決議の詳細は次項に述べる。

(注2)二重拒否権:常任理事国は、ある問題が手続事項にあたるか否かの決定の際、手続き事項でないことに拒否権を行使して実質事項とした上で、その実質事項の決定に際して再び拒否権を行使することができる。このように、拒否権が2度にわたって行使されることを「二重拒否権(double veto)」という。

(5)国連憲章改正の難しさ

 国連憲章は、総会を構成する国の3分の2の多数で改正案を採択する通常の改正手続(第108条)のほか、憲章の規定を再審議するための全体会議を開催し、全体会議において3分の2の多数で改正案を採択する方法(第109条)の2通りの改正手続が規定されている。   

 いずれの場合も、採択された改正案が、国連加盟国の3分の2の多数によって、それぞれの国の憲法上の手続に従って批准されたときに、憲章の改正は効力を生じる。

 そして、この批准国の中には、すべての常任理事国が含まれていなければならない。したがって、国連憲章の改正の際も、常任理事国は拒否権を行使することができる。

 ゆえに、拒否権の廃止や敵国条項の削除などの憲章の改正は不可能であると筆者は見ている。