(舛添 要一:国際政治学者)
ロシアのプーチン大統領が、9月2日にモンゴルを訪問し、3日に帰国した。国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナ侵攻をめぐってプーチンに逮捕状を出しており、ICC加盟国のモンゴルはプーチンを逮捕する義務がある。しかし、モンゴルは、その義務を果たさなかった。
国際政治の荒波にもまれるICC
2023年3月17日、国際刑事裁判所(ICC)は、ウクライナの子ども拉致の容疑で、プーチンとマリア・リボワベロワ子供権利担当大統領全権代表に逮捕状を出した。それ以降、プーチンが加盟国を訪問するのは初めてである。事前に両国間で逮捕しないことが了解済みであったようだ。
ロシア、アメリカ、中国などはICCに加盟しておらず、現在の加盟国は123カ国である。それだけに国際的な重みに欠けており、今回のプーチン不逮捕は、その威信をさらに失墜させることになった。
一方、国際慣習法では、現職の国家元首は逮捕・訴追できないことになっている。ダルフール紛争に絡んで、2009年にICCはスーダンのバシル大統領にジェノサイドの罪で逮捕状を出したが、南アフリカは、彼が2015年に訪問した際には逮捕しなかった。
また、2011年6月には、リビアの独裁者カダフィ大佐とその息子に対してICCは逮捕状を出したが、カダフィは4カ月後の10月に殺害されている。
今年の5月には、ICC検察局は、イスラエルのネタニヤフ首相、ガラント国防相、そして3人のハマスの政治指導者に対して、戦争犯罪容疑で逮捕状を請求しているが、捜査が進捗せず、予審裁判部はまだ逮捕状を出していない。
その背景には、イスラエルの自衛権を支持するアメリカの反発があり、ICCの存在意義が稀薄になっていることがある。
日本はICCへの最大の分担金拠出国であり、現裁判長は日本人の赤根智子であるが、国際政治の力学の中で、独自の判断によってICCの行動を支持することができないのが現実である。
ICCは、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪に関して、個人を訴追するが、あくまでも国内裁判所を補完するものであり、関係国に捜査・訴追を行う能力や意思がない場合のみに管轄権を有する。ウクライナもICCの未加入国であるが、ウクライナはICCの管轄権を受託しており、それがICC検察官の捜査につながったのである。
いずれにしても、今回のプーチンのモンゴル訪問は、ICCの限界を白日の下にさらしたのである。