
低迷していたカナダの与党・自由党の支持率がここにきて回復している。支持率低下の原因となったトルドー首相よりも、カナダに対する関税導入だけではなく国土の併合案まで言及しているトランプ米大統領に対し、国民の怒りが高まったことが要因とされる。現職のトルドー首相は今年3月に辞任することが決まっており、今秋の総選挙では野党の躍進が確実視されているが、崖っぷちの逆襲で与野党はじめ国民総出の「チーム・カナダ」による一致団結を呼びかけた。日本の石破茂首相は日米首脳会談でトランプ大統領を持ち上げまくったが、トルドー首相に学ぶべきこともありそうだ。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
トランプ米大統領の就任からまもない1月下旬、SNSでバズったコメディ動画がある。
若いカナダ人男性がスーパーでケチャップの棚に手を伸ばすと、突然年配の別の男性客から叱責される。年配の買い物客は鬼軍曹よろしく「貴様、何をやっとるのか!」と若い客を怒鳴りつける。ケチャップが米国製だからだ。貿易戦争のただなかだというのに、米国製品を買うとはこの裏切り者め、という趣旨の寸劇である。
動画を制作したのはカナダのコメディ番組で、配信されたのはトランプ氏が実際にカナダに対して25%の関税を導入すると発表した直前のことだ。「鬼軍曹」は米国製品を代替できるカナダ製品を列挙し、若者にそれらを買うよう促している。TikTokのコメント欄には「買い物リストを作るのに役立った」というユーザーのリプライが2万個以上のいいねを集めている。また動画のいいねの数は、97万以上に達している。
先述の通りこれはコメディである。だが、実際に関税戦争をふっかけられたカナダでは、消費者が米国製品からカナダ製品に乗り換える動きが活発化している。
テレビなどのメディアでは、スーパーでどのようにカナダ製品と米国製品を見分けるかを特集するなど、人々の消費活動に米国製品のボイコットが広がり始めている。製品を見分けるポイントの一つは、ラベルなどにカナダの公用語である英語とフランス語の両方が併記されていればカナダ製、といった具合だ。

いまのところ米国による関税の発動は少なくとも30日間延期されることになった。それでも長年の同盟国である米国による突然の“暴挙“に、カナダ国民の怒りは収まらない様子で、米国製品のボイコットはスーパーの陳列棚にとどまらない。英BBCは、アマゾンやネットフリックスのサブスクをやめた人や、米国でのホリデーを取りやめた人たちなどを特集している。
カナダ市民の間には「Buy Canada」運動と共に、愛国心が急速に高まっているのだという。
先のコメディ動画の終盤にはまるで本当の戦時下の如く「私たちは、それぞれにできることをしなければ」というナレーションが流れる。そしてこの数日後、まさしく同じことを国民に呼びかけたのが、カナダのジャスティン・トルドー首相(53)である。