ドイツ極右政党AfDの決起集会にオンライン参加したイーロン・マスク氏(写真:ロイター/アフロ)

アウシュヴィッツ強制収容所の解放から80年、ドイツで「ナチスの再来」に警戒感が高まっている。極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が大富豪イーロン・マスク氏の支援を受けて勢いを増しているからだ。マスク氏はAfDの集会にオンライン参加し、「はっきり言って(ドイツ人は)過去の罪悪感に焦点を当てすぎ」と発言し、AfD支持者から喝采を浴びた。そもそも、電気自動車(EV)テスラの事業以外ではドイツと関係が浅いマスク氏は、なぜこれほどAfDに肩入れするのか。背景に仕掛け人の存在が浮かび上がってきた。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 110万人もの人々がナチスに虐殺されたアウシュヴィッツ強制収容所が解放されてから、27日で80年を迎えた。収容所跡地では追悼式典が開かれ、当時を生き抜いた50人あまりの人たちが惨事を二度と繰り返さないようにと、悲痛な思いを訴えた。

 式典に出席したトーヴァ・フリードマンさん(86)は、解放当時わずか6歳半だった。生存者の高齢化により当時を知る生き証人が減少していく中で、在米のフリードマンさんは孫の手を借りながら、TikTokで自らの体験を語り継いでいる。

 その中では、5歳で収容された何の罪もないフリードマンさんが髪を刈られ、今も腕に残る番号を刺青されたことも語られている。その日から名前を奪われ「A-27633」がフリードマンさんを示す記号となった。このほかにも、極寒の中何時間も外で並ばされ、寒さに震えた幼いフリードマンさんの顔を、女兵士が幾度も殴りつけたことも話している。

アウシュビッツ解放80年の記念式典に参加したホロコーストを生き抜いた人々(写真:ロイター/アフロ)

 同じく生存者で、今月99歳になったばかりのレオン・ヴァイントラウブさんは、今まさに欧州で、1世紀近く前に起きた惨劇が繰り返されかねない危機を訴えた。

 ヴァイントラウブさんは、昨今欧州諸国でナチスを彷彿とさせる制服を着、堂々とナチスのスローガンを掲げる者たちがいることに、大きな悲しみを感じると話した。「民主主義の敵が何をふれ回っているかを真剣に捉えねばならない。ナチスが1930年代、ユダヤ人やロマ人、見解の異なる人々や病気の人たちを、生きる価値のない者として排したことを忘れてはならない」(ヴァイントラウブさん)

 式典では他にも、すでに他界したアウシュヴィッツ生還者による「私たちの過去を、子供たちの未来にしたくない」という言葉も伝えられた。生還者らの懸念は、今まさに欧州の人々が現実として直面している危機である。

 人類最大の犯罪行為の一つであるナチスの虐殺を生き抜いた人たちが、高齢の体で懸命に魂の叫びをあげた数日前、かつてナチスが支配したドイツで、その思いを公然と踏みにじる行為をした者たちがいたからだ。