
イーロン・マスク氏の過激な言動が、電気自動車(EV)大手テスラのブランドイメージに深刻な影響を及ぼし始めている。SNSではテスラ車を、ナチスドイツのシンボルとして知られる、かぎ十字「スワスティカ」になぞらえて「スワスティ・カー」と呼ぶパロディが拡散。欧州では活動家やポーランド観光相が不買運動を呼びかける事態に発展している。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
トランプ政権のもと新設された政府効率化省(DOGE)を率い、多忙を極めているはずの富豪のイーロン・マスク氏。そのマスク氏傘下のEV大手テスラが、最近新型モデルを発表したというパロディがSNSで広がっている。その名も「スワスティ・カー #SwastiCar」。ナチスドイツのシンボルとして知られるかぎ十字「スワスティカ」をもじった名前だ。
現在、SNSには#SwastiCarに関するジョークやミームがあふれかえっている。
80年あまり前に死亡したヒトラー総統までもが制服姿でこのスワスティ・カーの運転席に座った画像も散見される。ドイツ帝国の行末を案じているのか、かなり神妙な面持ちでハンドルを握るヒトラー氏。画像キャプションには「ここにも一人ご満悦な顧客」とある。
ギアやタイヤがかぎ十字形にデザインされている画像もある。そんなクルマがあれば、「往年の極右ファン」にはたまらないモデルとなり得るだろう。
マスク氏はトランプ大統領の就任式で、ナチスドイツ式の敬礼のようなジェスチャーをしたり、総選挙を控えたドイツで極右政党を大々的に支援したりしている。パロディはそのようなマスク氏の行動を受けてマスク氏をナチスそのものにたとえ、同氏の販売するクルマは「ナチス・カー」と揶揄(やゆ)するものである。

英国では活動家らが、敬礼を想起させるマスク氏のジェスチャーの絵に「スワスティ・カーを買うな」と記したステッカーをロンドンの路上のテスラ車に貼りまくる運動を展開している。この活動を始めたとされる「みんなイーロン大嫌い #人々vsマスク」というSNSアカウントでは、サイトに登録するとアンチ・スワスティ・カーステッカーを無料でもらえる。また、彼らはマスク氏がXに投稿するごとに1ペンスを寄付すれば、マスク氏が忌み嫌う反差別・反ファシスト団体にまとめて寄付するとしている。
米ニューズウィークによれば、1月26日に始まったばかりのこのキャンペーンで、わずか数日のうちに5万ポンドもの寄付が集まったという。団体のサイトには米国やオーストラリアなどの人々が「ステッカーを海外にも提供して欲しい!」という投稿が並ぶ。
SNSにはこの他にも、テスラの看板の下に「ファシストF—-Off」と落書きされた画像が投稿され、それにテスラやマスク氏に対する誹謗中傷ともいえる返信が大量につくといった状況になっている。
以前なら、こうした投稿はSNSから削除されていたかもしれない。しかし、言論の自由の絶対主義者を標榜するマスク氏は、自身が所有するXから投稿を管理するモデレーターを削減し、自らヘイトや偽情報を野放しにしている。フェイスブックやインスタグラムを運営するメタのザッカーバーグCEOも、最近トランプ氏に迎合してファクトチェック機能を放棄するなどした。いずれも「ダブルスタンダード」とのそしりを受けずに、こうした投稿を取り締まることはできないだろう。