マスク氏の言動に憤るリベラル派オーナー
そもそもEVのテスラ車は、気候変動に危機感を覚えるリベラルな人たちが環境に配慮する目的で好んで購入した傾向がある。そうしたテスラ車オーナーの中でさえ、極右の陰謀論に傾倒したり、気候変動や多様性などの社会問題への関心が高い人々を「Woke(意識高い系に類似する言葉)」とひとまとめに糾弾して攻撃したりするマスク氏を快く思わない人々が急増しているのだという。
米国ではマスク氏の過激な発言や行動のたびに、売り上げが上昇する商品があるという。車体に貼り付けるバンパー・ステッカーで、そこには「このクルマを買ったのはイーロンの気がふれる前」「イーロン黙れ」「アンチ・イーロン・テスラ・クラブ」などと記されている。
こうしたステッカーの一部を販売しているハワイ在住の男性は、昨年米ニューヨーク・タイムズ紙の取材に、実は自身がテスラ購入を考えていたものの、マスク氏がXを所有して以来、誤情報が蔓延していることに嫌気がさし、マスク氏に一文も払いたくないと考えを改めたという。
そして、テスラ車のオーナーの中には、マスク氏の考えを代表していると白い目で見られて恥ずかしい思いをしている人たちもいるのでは、とステッカーを考案したという。この男性は個人でオンライン販売をしているが、マスク氏による一連のナチス式敬礼騒動前の昨年末の時点で、30カ国で1万8000個のステッカーを販売したという。
こうした「テスラ嫌い」の動きは、一連の草の根の活動にとどまらない。英国での1月末の世論調査によれば、回答した1000人のうち6割に上る人たちが、マスク氏のせいでテスラ購入を忌避すると答えた。同時期、オーストラリアのニュースサイトが行なった調査では、テスラ所有者の7割がマスク氏の行動が原因で売却を検討するという結果が出ている。
オランダでは3分の1近くの人たちが売却を検討しているという。調査対象の2万6000人たちのうち4割が、マスク氏のせいでテスラ車を所有することが恥ずかしいと感じているという結果も出ている。
ただし、テスラ車を擁護するオーナーもいる。オンライン上には「美しい音楽を作った作曲家だって悪いことをしている。その音楽の美しさが減少するわけでもない」という意見も見られた。
しかし、マスク氏の言動が「恥ずかしい」などという生優しいものではなく、唾棄(だき)すべきものだと怒り、拒否する人たちがいることも事実だ。テスラに対して消費者の反発だけではなく、国レベルでテスラ車のボイコットを呼びかける動きも出てきている。