
ついにトランプ氏が再びホワイトハウスに戻ってきた。20日の大統領就任式にはイーロン・マスク氏やジェブ・ベゾス氏、マーク・ザッカーバーグ氏ら米テック大手の大富豪がこぞって出席し蜜月をアピールした。テック富豪があの手この手でトランプ氏にすり寄る「ヘタレぶり」はあきれるほどだ。SNSオーナーらの愛想笑いには、欧州の規制強化に対してトランプ政権と共闘したいとの思惑もありそうだ。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
20日に第2次トランプ政権が発足した米国で、年明け早々に物議を醸した1枚の風刺画がある。ふくよかな下腹部をさらしたトランプ氏を思わせる銅像を前に、数名の男がひざまずき、嬉々として金を差し出す様を描いたものだ。男の一人は、アマゾン創業者で米ワシントン・ポスト紙(以下ポスト紙)オーナーでもあるジェフ・ベゾス氏(61)だ。
この作品を手掛けたのは、当時ポスト紙の風刺漫画家でピュリツァー賞の受賞歴もあるアン・テルネス氏。しかし、この風刺画が話題になったのはポスト紙上ではない。なぜなら、当のポスト紙が掲載を拒否したからである。
社会的な影響力のある富豪らが金を手にトランプ氏の足元で媚を売る様子は、アマゾンがトランプ氏の大統領就任基金に100万ドルの寄付をしたことを彷彿とさせる。「報道の老舗」であるポスト紙の風刺画としては申し分ない内容だが、これが社内で却下された。編集者は掲載見送りの判断について、すでに同様の風刺を掲載予定であり、重複を避けるためだったと説明している。

掲載拒否を受けてテルネス氏は「報道の自由にとって危険だ」として同紙を辞職。オンライン上で見解を記し、企業に勤める以上は自社の利益を守るべきという意見も理解するが、報道機関においては例外だと主張した。
「報道機関の所有者には、報道の自由を守る責任があり、独裁者の好意を得ようとすることは、報道の自由を損なうことになるだけだ」「編集漫画家としての私の仕事は、権力や組織の責任を追及することだ。編集者は、私がその重要な仕事をすることを(今回)初めて妨げた」(テルネス氏)
報道に携わる人の視点としては真っ当な見解である。昨今、元アイドルが女性を性的に傷つけたという疑惑で日本のテレビ局が猛批判の嵐にさらされているのは、自社に不都合な事実でも報道機関にはそれを詳しく説明する義務と責任があるにもかかわらず、それが十分になされていないとみなされているからだ。