なぜ、ベゾス氏はトランプ氏にすり寄るのか

 風刺画掲載を見送った編集者の説明が今一つ説得力に欠けるのは、大統領選のさなかにポスト紙が用意していたハリス前副大統領への支持表明をベゾス氏が潰した経緯があるからだ。報道によれば、この決断が公表されたわずか数時間後、ベゾス氏が所有する宇宙開発企業ブルーオリジンの幹部がトランプ氏と会談している。

 ブルーオリジンは、トランプ氏の“ファースト・バディ(第一の相棒)”を自称するイーロン・マスク氏の宇宙開発企業スペースXと競合関係にあり、連邦政府との契約をめぐって火花を散らしてきた。

就任式前夜の食事会に出席しマスク氏(左)と談笑するベゾス氏(写真:ロイター/アフロ)

 ベゾス氏にすれば、ビジネス上のメリットに比べれば報道の自由など塵(ちり)ほどの価値もないということだろう。また、トランプ氏が第1期の大統領任期中だった2019年、ベゾス氏は国防総省とアマゾンの子会社が結ぶはずだった100億ドルの契約をトランプ氏の「私怨」によって反故(ほご)にされたと主張したこともある。当時、ポスト紙は報道機関が果たすべき義務を怠らずトランプ氏に批判的な記事を何度も掲載し、トランプ氏は度々同紙に怒りを露わにしていた。

 そのアマゾンは新年早々、メラニア・トランプ夫人のドキュメンタリーを制作すると発表した。過去の教訓から同じ轍(てつ)を踏まないようトランプ氏に気を使うにしても、世界でも有数の富豪であるベゾス氏の見事な「ヘタレぶり」には目を見張る。

 テルネス氏の風刺漫画に描かれているのはベゾス氏だけではない。もう一人のテック富豪は、メタ創業者のマーク・ザッカーバーグ氏(40)である。

 メタもアマゾン同様、大統領就任基金に100万ドルもの寄付をしている。2021年、トランプ氏が前回の大統領選での敗北を認めず、支持者らによって連邦議会が襲撃された際、ザッカーバーグ氏は偽情報拡散防止のためトランプ氏をフェイスブックから排除した。同じ人物による、見事な手のひら返しぶりである。

 ザッカーバーグ氏は2020年、大統領選で選挙の運営支援を行うNPO(非営利団体)に4億ドルもの寄付をしている。トランプ氏はこの寄付が当時の敗因の一つだとザッカーバーグ氏に繰り返し難癖をつけ、昨年出版した自著において、昨年の大統領選で同様の「違法行為」が行われれば、ザッカーバーグ氏を生涯投獄すると脅迫もしていた。

 富豪らによるトランプ大統領への寄付は、もはや「トランプ教」に入信することで自らの魂(と会社)の救済を求めるお布施のようだ。

 事実、ザッカーバーグ氏には刑務所暮らしを免れることとは別に、トランプ氏にすり寄らざるを得ないビジネス上の深刻な事情もあるようだ。